四国歩き遍路日記33日目。この旅の記録は以前旅をしながら公開していた日記ですが、諸事情によりお蔵入りしまったものを再編集したものです。
最近はありがたいことに、この歩き遍路日記も検索から入ってきてくれる場合が増えてきたので、まずはじめに書いておきますが、この歩き遍路日記は悩みを持って歩き遍路に出た男が運命的なお泊り接待を受け、そこでの生活を記したものが主軸になっています。
一般的な八十八箇所のお寺を巡る歩き遍路の日記を求めている場合は、おそらく他の方の日記を見ていただいた方が良いかもしれません。
ただ、お遍路をするという事は何かしらの悩みを抱え、救いを求めて旅に出る事が多いと思いますので、旅に出る事で救われた事を記しているこの日記は、もしかしたら何かのお役に立てるかもしれません。
…と、いう事で、本日の内容は非常に長いものになっております。お時間がかかってしまうと思いますので、お忙しい場合はブックマークしておいて後で読んだほうがいいかもしれません。
おそらく今までの旅日記の中で一番の最長なんじゃないでしょうか?それだけ書きたい出来事が早朝から深夜まであったわけですが、その中のひとつでも旅の雰囲気を感じ取ってもらえたらと思います。
ではでは、再編集版よろしくどうぞ。
- 1 四国歩き遍路日記33日目のまえがき
- 2 朝起きてトイレに籠っていると…
- 3 右手に持っていたもの
- 4 尾根と聞いて思い浮かんだもの…
- 5 高所恐怖症、ひょいひょいっ!!
- 6 岩を見て、拝みたくなる気持ち
- 7 水車の跡で
- 8 目的の場所に到着。しかし…
- 9 サイフォンの原理、ふたたび!
- 10 滝行と東京OLちゃんねる
- 11 いよいよ僕の出番
- 12 ものづくりの天才
- 13 尊敬とは…
- 14 木の枝を両手に
- 15 精神を安らげる香木とは?
- 16 匂いフェチの好きな匂い
- 17 まだまだ序章
- 18 ペンを売る
- 19 ネットでモノを売るコツと洗濯機
- 20 聞こえてきた、ガラガラという音
- 21 中盤戦のはじまり
- 22 大人数で、お昼といえば…
- 23 吉田松陰のような、嵐のような
- 24 嵐の後には嵐
- 25 うな丼のタレ
- 26 ラリホー、ラリホー、吉野川温泉
- 27 お風呂を終えて山に戻る。
- 28 四国歩き遍路日記33日目まとめ
四国歩き遍路日記33日目のまえがき
『四国歩き遍路日記33日目』の今日は山の上に来てちょうど1ヶ月。朝からギュッと詰まった出来事が沢山ありました。
今までお客さんが訪問してくるにしても、1人か2人のが常でしたが、今日は絶え間なくやって来る。こんなにも1日が長いと感じた事はアリませんでした。
楽しい時は時間が早く感じると言いますが、歳をとると一年が早く感じるとも言います。それは大人になればなるほど楽しいことが増えていくということなのでしょうか?
否!
今日体験してわかった。充実していると時間は長く感じるものなのだ。そこにはぎっしりとした出来事が詰まっているから!!子供の頃の夏休みが永遠のように長く感じたのは、そこにぎっしりとした出来事が、感動が詰まっているから!!
大人の僕は、その感動を忘れないように、出来る限りここに記録しておくことにしよう。
→他の日の四国歩き遍路日記はこちらにまとまっています、合わせてどうぞ。
※復刻にあたり、旅先で沢山写真を撮ったものをアップすることにしました。Facebookの方へ高画質のアルバムを作りましたのでよろしければ御覧くださいませ。
朝起きてトイレに籠っていると…
さっそくですが、最近のトイレ事情。毎日美味しすぎるものをたらふく食べているせいか、朝は必ず便意で起きる。まだ太陽が上がりきっていない早い頃、毎日決まって同じ時間にお腹が痛くなるのです。
まぁ、順調な便意のおかげで痔の方は落ち着いているワケですが、今日、トイレに籠っているとまだ誰も起きてこない時間帯のはずなのに、トイレの外でゴソゴソ言っている。
ん!?鹿か!?
昨日の朝の出来事を思い出してビビった僕は、ソロリソロリとトイレを抜け出す。
扉を開けるとそこにいたのは、まさかの先生。
うわああああああ!!ビックリしたぁ…。先生がなぜこんな朝早くに起きてきたのか。その理由は右手に持っていたものが教えてくれました。
右手に持っていたもの
長靴を複数持っている先生。
「野口君、靴のサイズはいくつかね?」と聞いてきたので、28.5ですと伝え、先生が手に持っていたいくつかの長靴を履いてみる。
うーむ。どれもこれもちっとばかり小さくて足が痛い。僕は違う種類の長靴からなんとか履けて足の痛みが少ないものを選び出した。両方とも穴が空いている。
「どちらにしても足は濡れるけん、大丈夫」と先生。
…ん?濡れる?
「なんでも腹に入れときー」と先生が大好物のミニスナックゴールドを指さす。今から山の尾根の方に登って、台風の時に詰まってしまった水源を直しにいくのだという。
僕はそそくさとパンをお腹に流し込み、尾根の方に行く準備をする。ミニスナックゴールド。このパン美味しいよね!
消費期限過ぎてるけど。気にしない気にしない。
尾根と聞いて思い浮かんだもの…
あなたは、『尾根』をご存知だろうか。
夏がくぅ〜れば 思い出すぅ〜 はるかな尾根ぇ〜 遠い空ぁ〜♪
…いや、かの有名な童謡、『夏の思い出』で歌われているものは尾瀬(おぜ)である。僕が今日話すのは尾根(おね)。
尾っぽの根っこと書いて尾根。尾っぽの根っこ?おしりの事?尾てい骨?
正直、僕は尾根に行くと聞いて、夏の思い出の歌が頭に流れてきて、今日はピクニックなのだな、長靴は釣りにでも行くのだなと思ったのだ。わーいわーい。
しかし。
尾根(おね)は、谷と谷に挟まれた山地の一番高い部分の連なりのことである。
引用:「尾根 – Wikipedia」
と、Wikipediaさんは教えてくれた。
山の上の生活を1ヶ月もしていて、考えもしなかったのが不思議なのだが、この山にも山地の一番高い部分、つまりは『てっぺん』があるわけである。
当然ながら、これだけ高い山の上に住んでいると都市部にはあって当然の水道管なんてものは通っておらず、山の水源を利用するのがこっちの常識のようだ。
まぁ、それのおかげで水がビックリするほど美味しくて、それで炊いたお米も飛び抜けて美味しいわけで、僕のトイレ事情にもつながってくるわけだが、その話をすると話が元に戻ってしまうので、話を進めよう。
水は高い所から低いところへ流れていく。…という事は、この小屋に流れている水は、もっと高い所にある水源が恵みのもとなわけだけれど、その水源がどうやら調子が悪い。
すっかり忘れていたけれど、あれだけ雨が続いて、お風呂屋さんが水没するほどの台風が来たのだ。何かしらの影響を受けていてもおかしくない。
まぁ、そういうわけで、ここに来てから初めて、山のてっぺんの方を目指していくわけだけれど、先生はなんとはなしに鹿避けの網をくぐり山を登っていく。
そこに道はない。
え…。
ここを登っていくのですか?この斜面を?
…本当に!?
高所恐怖症、ひょいひょいっ!!
目を丸くしている僕を尻目に先生は慣れた手つき(脚つき?)でひょいひょい登っていく。
たしか、前にまつたけ狩りに行った時に書いたと思うのだけれど、僕は身長が高いわりに、高所恐怖症持ちである。
ズシズシと登っていく先生を見つめる僕の視線はどんどん高くなっていく。マジで、これを登るというのか…。
ま、待ってー。置いてかないでー。
いやーーー!!!落ちるよ!落ちてしまうよ!これはヤバい!!
置いて行かれないように、そこらに落ちていた太い木の杖をつきながら頑張って登る。あのね、写真じゃ怖さが伝わらないけど、この写真の157倍は怖いよ!
…ホントだよ?
目の前にそびえ立つ、木々。怖すぎて、写真を撮る僕の手も震えている。基本的に今日撮った写真はすべて手ブレがひどい…。
な、なんなんだこの角度は!!山を登るって言っても、直角三角形の一番長い辺の部分を登るような事だったなんて、聞いてないよー!!
こわわっ!!
…絶対に下を見てはいけない。
岩を見て、拝みたくなる気持ち
そんなへっぴり腰の僕とは違い、相も変わらず、先生はガシガシ登る。しかし、ある所で先生は足を止めた。そしてまるで北斗の拳のラオウのように天を指さした。
「ここは落石があるかもしれないからササっとわたるんじゃ」
言われた所の上を見ると僕の40倍ほどもある大岩が!!
これはヤバい。落石注意とかそんなレベルではない。落岩警報発動!こんな所でくたばったら、一辺の悔い無しなんて思えないよー!!
僕はその巨大岩の写真を撮るのを諦めササっとその場所を通り過ぎる事にした。
ナンマンダブ、ナンマンダブ。
どの地方にも岩を神様として拝む習慣があるけれど、僕はこの時ほど、心の中で強く拝んだことはなかった。
落ちるなよ、落ちるなよ。いいか!!前振りじゃないからな!落ちるなよー!!
もう神様にすらタメ口である。
水車の跡で
神様への無礼すら恐れぬ僕は、無事、巨大岩の恐怖に打ち勝ち、岩の下を通り抜けた。すると何やら不思議な形をした2つの石が見えてきた。
先生、これはなんですか?
「これは昔ここいらに住んでいた人が使っていた水車の跡じゃ。結構めずらしいもんじゃけん、写真に撮っておき」と、先生。
ほほー。確かになんとなく面影がある。ただ水は流れていない。時代は移り変わるのですな。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶふたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。
引用:「方丈記」鴨長明
という言葉が浮かんでくる。鴨長明だっけ?方丈記のやつ。昔の人は核心を突いた作品が本当に多いものだなぁ。
目的の場所に到着。しかし…
しばらく登ると、そこに2つの井戸のようなものがあった。どうやらこれが水源のようだが。
中を覗いてみると…。
か、枯れている!!しかも、そこにはヘドロのような土がどっぷり溜まってしまっている。本来ならばここには透き通った綺麗な水が溢れんばかりに流れているらしい。
うーむ。これを一体どうするのだろう。何もわからない僕は、その修理方法などちっとも浮かんでこなかったが、先生は持ってきた道具をその場に広げ、必要なものを手に取った。そしてまたテクテクと上の方に登っていく。
あっけにとられる僕。とりあえず何をしたらいいのかわからなかったので、周りを見渡してみた。
サイフォンの原理、ふたたび!
あら。なにやらパイプのようなものが落ちている。もしかして、これがいわゆる水道管の代わりをするのだろうか?僕はそのパイプをたどってみることにした。
するとそのパイプの先端に先生は座り込んでいた。
「ここじゃな」と、何やらゴソゴソ作業する。そして時折パイプの入り口に口を当て、恐るべき肺活量でスーハースーハーしていた。
うおおーーーー!!!!
な、なんだと!?水が勢いよく流れてきた!!あれだ!サイフォンの原理だ!
ついこの間、灯油を入れた時にも出てきたサイフォンの原理。あれをここで実践しているのだ。考えてみれば、いっつも見ている鯉の池。先生があの池を掃除している時と同じ方法だ!!
なるほど。すべては繋がっているのだなぁ。
…と、感心したが、とりあえず今は僕には何もすることが見当たらない。
怖い思いをしてやってきたが。
…暇だ。
滝行と東京OLちゃんねる
とりあえず僕は、水源となっている滝を見に行く事にした。
おおお。ここで滝行が出来るではないか。その滝を見ていると、ふと、最近滝行を行った東京の友達を思い出した。ここでも滝行が出来ますよ、東京OLちゃん。
↑東京OLちゃんは、ここのブログの管理人やっている人。
手話のミュージカルに出たり、富士山に登ったり、マラソンに参加したり、滝行したり…。時折その報告を受けるのだが、結構変わった変な人だ。ま、山の上で暮らしている僕に言われたくないとは思うけれど。
良かったらご覧あれ。
いよいよ僕の出番
しばらくそんなふうに時間を過ごしていると、先生が仕事をくれた。僕は言われたとおりに、水の流れを遮っている木の枝や石をポンポン別の場所へ放り投げる。
長靴の穴から足に水が入り冷たい。
…冷たいけど、なんか気持ちがいい。
おお。なんとなく水の流れが変わった!僕が来た意味があるってなもんだい!!
次に僕は、落ちていたバケツを使って、ヘドロのような土の塊をかき出す仕事を賜った。
手の長い僕だが、底に着くのがやっとの深さ。落ちないように片手で体を支えながら、水を含んで重くなった土を持ち上げる作業はなかなか大変だ。
そしてもちろん、手はちべたい。ひゃー。
11月だぜ!山の上の、上の方なので、気温も普通より低いのだ。薄着の作務衣で来てしまった事を今更ながらに後悔。七分袖が身に染みるぜ!腕もまっかになってきた。
しばらくその作業を続け、A型の僕は几帳面なほど土をかき出した。ひと仕事終えて、一体どのぐらい経っただろう。さっき僕が木の枝や石をポンポン投げた所に戻ってみると嘘みたいな光景が広がっていた。
ものづくりの天才
うおおおーーー!!!パイプが水に浸ってるぜ!!さっきまで丸裸だったねずみ色のパイプが水にどっぷり浸っている。先生は僕がポンポン投げていた石を組み立て直し、関を作っていたのだ。
う、嘘だろ!?だいぶ水面と距離あったよね!?
みるみるうちに溜まっていく水。全部手作業で作り上げていく。そこらへんにあるものを使って。なんてこったい。先生の頭の中は一体どうなっているのだろう。
ここまでの写真を見返してみてもらえればわかると思うけれど、この山に登る時、この黄色いケースでさえ、先生は持ってきていない。山に落ちていたものを利用しているのだ。
さらに先生は、大きな石を組み立て、ねずみ色のパイプの上に自然のもので作り上げた保護カバーのようなものをこしらえた。これでもう一度台風が来たとしても吹き飛ぶことはあるまい。
もとに戻すのではなく、教訓を活かし、さらに良いものを作り上げる。ものづくりの天才だな。
ほれ。あっというまに出来上がり。時間が経つとドンドン水が溜まっていき、淀んでいた水もドンドン澄んでいった。
す、す、すごい。もう何度目かわからないけれど、僕はただただ、先生にすごいっすね!!マジですごいっすね!!としか言えなかった。
尊敬とは…
どひゃー!あんなにからっからに枯れていた井戸が復活したじゃないですか!!
すげー!
先生はなんでも知っている。本当になんでも。そして知っているだけではなく、それを実行に移せる力がある。偏った知識しかないのに、自分を物知りだと思いこんでいる僕とは大違いだ。本当に尊敬してしまう。
尊敬とはまさにこういう気持ちの事を言うのだなと僕は実感した。
作業が終わったので、山を降りておしまいかな?と思ったが、先生は途中のパイプを見て「空気を抜くぞ!」と、パイプに巻いてあったゴムを外した。
すると、ゴボゴボゴボ…と、小気味良い音が鳴った後、プシュー!!!と勢いよく水が噴き出した。
「これで大丈夫だ」と、ビニールを被せたあと、巻いてあったゴムで再びパイプをぐるぐる巻く。すると、あれほど勢いよく飛び出していた水がピクリともしなくなった。これであの井戸の水が山の小屋の方へ流れる道の完成である。
ゴムってすごいな。ゴムって。
先生はこの方法を見つけるまでに色々なもので試したらしい。おそらくこんな方法は誰も教えてくれないだろう。亀の甲より年の功とはよく言ったものだ。年長者の経験から身につけた知恵は他のどんなものにも負けない。
木の枝を両手に
山を降りていく途中、道に落ちている木の枝を拾って帰った。行きはよいよい帰りは怖い。急斜面は登るよりも降りるほうが怖い。
だって、常に下が見えるからね!!
しかし、枝を拾って帰るという仕事を賜った以上、怖がってもいられない。先生にもらったビニール紐でいくつかの枝をまとめ上げ、両手に持った。
ん?あれ?
先生の方が大量に枝を持っている。ううう。僕は枝をビニール紐でまとめあげる事さえもうまく出来ないのか。先生はワシの方が大量に持っているなと笑っていた。
僕はその小さな小さな木の枝の集合体を両手に持ってソロリソロリと山を降りていく。…が、両手を使えないという事だけでこんなにも怖いものなのか。枝で足元が見えないのも恐怖感を増幅させている。
少し足が滑るたびにギャーギャーと騒ぐ僕。
先をスタスタと歩いていた先生は、僕の方を振り返り「あの枝を折って匂いを嗅いでみなさい」と指示する。
はて?枝?
どの枝のことかもわからず、両手に持った木の枝を一旦手放して、地面に手を付きながら、先生の指さす方へ降りていく。これ?これのこと?
そう。それ。
精神を安らげる香木とは?
福笑いのように、右、左と、先生に教えてもらってたどり着いた枝。僕は力を入れてボキッと折ろうとした。しかし、枝の筋がしっかりしていて、なかなか綺麗に折れない。
ち、ちくしょー!!こんにゃろー!!
僕は意地になってがむしゃらにグネグネして折り曲げた。
グニュン。バキボキメリン。
ふう。ものすごい形に折れた。よしよし。僕にも出来る事があるではないか。ムフー!!と、満足していると、先生が「それ嗅いでみ?」と、本来の目的を思い出させてくれた。
苦労して折った枝を鼻に近づけてみる。
おお!!これは!!!
アロマテラピーの匂いだ!なんだこれ!むっちゃいい匂いじゃないか!
匂いフェチの好きな匂い
僕は極度の花粉症で花粉症の薬を飲むと喉がカラカラになってしまうので、部屋の加湿も兼ねてアロマディフューザーというものを部屋で使うのだけれど…
↑こんな感じでね。
僕が嗅いだその枝は、そのアロマディフューザーにたらすレモングラスっていうシトラス的な柑橘系のアロマオイルに似ていた。
調べて見ると、おそらくクロモジとかいう枝っぽい。高級つまようじの材料として知られているらしいよ。
…もしかしたら違う枝かもしれんが。なんか先生が「高級お菓子のお供に」とかなんとか言っていた気がするから、きっとクロモジという枝であろう。先生が説明している時、僕はこの枝の匂いに夢中で、あんまり覚えていないのだ。
徳島県産のくろもじ茶も売っていたし、きっとクロモジであろう。違ったらゴメンね。
それにしても匂いフェチで衝動的に色々な匂いのアロマオイルを買ってしまう僕としては、この匂いはたまらん!あぁ。ちゃんと話を聞いておけば良かったよ。
ちなみに一番好きな匂いはメイチャンというリツェアクベバの匂い。もしあなたが匂いフェチであれば、ぜひお試しあれ。匂いって結構好き好きあると思うので、合わないかもしれないけど。
しかし、まぁ、この枝の匂いをかいだ僕は、途端に山の急斜面が怖くなくなった気がした。なんなんだ。本当になんでも知っているな、先生!!
とりあえず、僕はその匂いが気に入ったので、持っている木の枝の束に一本忍ばせ持ち帰ることにした。
時折ポキッと折って仕事の合間にでも匂いを嗅ぐことにしよう。自然の中で、自然のものを使い、自然のテラピー。こりゃー、病気が治る人が出てきたっておかしくないわけだ。
まだまだ序章
尾根への長旅を終え、無事帰還した僕ら。作業を終えましたと、あねさんに報告。足がビショビショだったので風呂場で足を洗う。
あねさんは、その間にご飯の準備をしてくれていた。今日のご飯は卵焼きと昨日のイベントの残りの焼きそば。冷えても美味いんだよなぁ、この焼きそば。なんなんだろ。僕が作る焼きそばと何が違うんだろ。
そんな事を思いながらご飯を食べていると、何やら扉の方からガラガラと音がする。時刻は10時ちょっと前。ん?10時?まだ10時!?尾根への旅は内容が濃すぎて精神と時の部屋に行った感じだ。
それにしても、こんな時間に誰だろう。
あー!!専務だ!専務がやってきた!!
専務は社員くんを連れ、先生や僕の話を聞こうと忙しい時間を縫ってやってきたのだった。
専務初登場の記事はこちら。まだ読んでなかったらどうぞ。
ペンを売る
思いがけない訪問にビックリしたけれど、僕は嬉しく思った。専務に初めて会ったあの日から、布団の中でずっと色々と考えていた。インターネットでモノを売る事。そのコツの伝え方を。
だって、こんな僕に期待してくれているわけだからね。少しでもその期待に答えねば。こんなに連日、忙しい中、僕目当てで会いに来てくれるのだから、僕も何かを返さねば。
あれらしいよ。専務は1週間のうちに4日は空の上を飛ぶらしい。多忙も多忙。そんな多忙な専務が1日中部屋にこもりっぱなしで生活を送っていた僕に会いに来てくれる。
そりゃー、頭をフル回転で眠る時もぐるぐる考えてしまうのです。
そして僕は偉そうに語り始めた。
あぁ。でもやっぱりあれだ…。人にこうやって話す自分は、すごく嫌いだ。僕はそんな事を考えはじめてしまったので、心の洗濯をと、気を紛らわせがてら、さっき尾根に行ってびしょびしょになった洋服を洗濯する事にした。
ひとつの事に集中するから悩むのだ。自分を忙しくしていれば悩む暇さえなくなるだろう。2つの事を同時にしていれば3つ目の事は頭に浮かばない。
そう僕の話を熱心にメモをとりながら聞いてくれている社員くんに断りをいれて立ち上がる。専務に「コイツに叩き込んでやってくれ」と言われたので、マンツーマンのレッスン。
社員くんは僕が出した問題にうーんうーんと考えながら、「どうぞ」と答えた。
時折洗濯場から帰ってくる僕に社員くんはペンの特徴を語る。しかし、それではインターネットでモノは売れない。僕はペンを売ろうとしている社員くんに、いや、いらないっすと一言告げて再び洗濯場へ移動する。
ネットでモノを売るコツと洗濯機
ぐるぐる廻る洗濯機。この渦と、チャプチャプなる水の音が僕の心を落ち着かせる。大丈夫だ。僕は偉そうに語ってはいない。大丈夫だ。偉そうには見えないはずだ。
大丈夫、大丈夫。
念仏のように大丈夫と唱えている僕だったが、だんだん作務衣が色落ちして青色に染まっていく洗濯機の水に焦った。時計を見る。もうすぐ10分だ。やっべ…。白いシャツに色移りしちゃってるよ。やっべ…。
ほら、3つの事は同時に出来ない。心が落ち着く。
僕は社員くんの元に戻り、社員くんの持っているペンを取り上げる。タイムアップ。
そして僕は布団の中で考えていた話を始めた。
ふむふむと、こんな僕の話をちゃんと聞いてくれる年上の社員くん。
僕は話を続ける。
そう言いながら、僕はサラサラとそこらにあった紙に文字を書く。そして、そこに僕の名前と住所を書いて、親指に赤いインクをつけ拇印を押した。
ここに名前を最初に書いたあなたに10万円差し上げます。
住所:埼玉県○○市123-4
Tel:090-0000-○○○○
野口
そして社員くんにペンを差し出し、500円でこのペンを買いませんか?と聞く。
社員くんは笑いながら「買います」と答えた。
どうだろう。詐欺師っぽくね!?でも、これが僕が布団の中でうーんうーんと考えた方法なのだ。
僕はこんな事をしゃべりながら、ああ。何をお前は偉そうにという声を聞いていた。まただ。また幻聴が聞こえる。うるさい。
頭の中の声と闘いながら僕は語る。
ツラツラとネット上でモノを売る方法を現実世界の商売と対比させながら説明していく。
僕はこの時、昔、とあるお店でセールスのバイトしていた時の事を思い出していた。
「野口さんはズルいっすよ。野口さんと一緒に働いていると普通に働いていても私がサボっているように見えてしまう」
お笑いでしゃべることを生業としていた僕。大学生の時にネットで起業をしていたこともあり、人にモノを売るコツは心得ていた。僕がしゃべればモノが売れる。僕はバンバン来店してきたお客さんを見つけては商品を売りさばいていた。
気がつけばバイトだというのに、売上トップになり、大手企業からスカウトされるようになっていた。そして僕一人がいれば他はいらないなと左遷された仕事仲間の声。
野口さんはズルい。
あぁ。僕はやっぱりグループに属して働くことは出来ないのだ。僕がいると誰かが嫌な気分になってしまう。そう思ってその言葉を言われたその日に仕事を辞めた。
あの頃の僕と今の僕。一体何が違うのだろう。僕はそんな事を思いながら社員くんに説明していた。
聞こえてきた、ガラガラという音
遠くの方から再びガラガラという音が聞こえてきて話は中断された。元気よく聞こえてくる声。先生の奥さんとお孫さんがやってきた。あそぼーやー。はよーあそぼーやー。
途端に僕の頭の中の負のオーラは消えてく。僕はあそぼーやーの声に負け、社員くんに謝って子どもたちの方へ行った。アソボーヤ。あそ坊や。なんかゆるキャラみたいな響きだな。ここがもし九州だったら阿蘇坊やってなってたんだけど、おしい。
前回強く肘を打って泣かせてしまったお孫さんは、「もう肘は痛くないけん」と笑ってた。良かった。僕は誰にも気がつかれないように胸をなでおろす。
お孫さん達の熱量はパワフルなものだ。仕事の話をしていた空気はなんのその、遊ぼう!と社員くんを巻き込み時間を過ごしました。子供は強い!!
中盤戦のはじまり
尾根に、専務に、お孫さん。もう充分に今日のブログの記事に書く内容が埋まりそうなのだが、ここでまた新たな来訪者がやってきた。重なる時は重なるものなのだな。
新たにやってきた人は女性の方。元々ここで過ごした経験がある人のようだ。言ってみれば僕の先輩にあたる人。あねさんとは仲がよく友達みたいな感じだ。
彼女は手土産に「くさ餅」というお菓子をくれた。どこから見ても伊勢名物の赤福じゃないか!と思ったが、食べてみると不思議。赤福ほど甘くないし、中の餅がよもぎだ。
ほほう。これは赤福がダメだという人でも食べられそうだ。
完全に専務たちの話は立ち消えになり、あねさんの友達はパワフルに語っていた。会話の主導権を握るとはこういう事を言うのだな。
大人数で、お昼といえば…
お昼。
やはり大人数と言えばカレーだろう。折り紙大好きな長男のお孫さんは、
「カレーうまし!なにこれー!」
と言っていた。確かに美味い。うましー。
え!?写真がパンだって?ここに写っているパンケーキ。これはそのうましーと言っている折り紙長男がみんなに振る舞うんだーと言って午前中に焼いていたホットケーキである。
前に一度褒められたのが嬉しかったらしく、先生の奥さんに今日はたくさん食べるものあるから別の日にしよ?と提案されても焼いていた。
カメラを下にぐぐぐっとずらそう。そして見えてくるカレー。
本来はこれがが昼食だったのだが、この写真の上にもちょこっと写っているようにパンが山盛りに添えられていた。
そのホットケーキやらパンケーキやら、山盛りの食べ物たちを僕は一生懸命食べていたけれど、他の人は全く手を伸ばそうとしなかった(笑)
まぁ、当の本人である折り紙長男もポケモンヌードル的なカップ麺にお湯を注いでカレーと一緒にズルズルと食べていたのだから、もうなんも言えねー…である。
食べ物を残す事が出来ない僕はただひたすらウマウマと食べていた。口の中はぱっさぱさ。げふん。
吉田松陰のような、嵐のような
さて、なんだかんだで密かに人見知りの僕は黙々とカレーとパンケーキを食べ続けていたのであるが、あねさんの友達のしゃべりはマシンガンのように止まらない。他の人も黙ってカレーを頬張り、うんうん頷くばかりなり。
僕はその光景を見て、話に賛同して頷いているのか、カレーが美味しくて頷いているのかわからなくなった。いつもとは少し違う光景。違う雰囲気。
久しぶりの感覚だ。考えてみれば、ここでの会話は、基本的に断定的な話し方をしない。疑問を投げかけ、みんなで一緒に話すような語りの場なのだ。
そのような場所をなんか昔、聞いたことがある。そうだ。松下村塾だ。幕末から明治にかけて活躍した人たちをたくさん輩出したすごい塾。
↑昔、チャリの旅をした時に松下村塾に行ってみた事があるが、そこでビックリしたのは松下村塾の先生である吉田松陰は29歳で亡くなっている事だ。歴史の教科書の写真のイメージがあるから60〜70歳ぐらいの人だと思っていた。
そう。まさに先生のようなイメージだった。先生は吉田松陰のような人。みんなで学ぶ人類学。
なので、あねさんの友達のような断定的な語りを聞くのは久しぶりだった。たまにはこういう刺激も良いものだ。うん。本来ならばこういう光景の方が普通なのだ。
そんなこんなで、みんなでワイワイご飯を食べ終えると、やっぱり忙しい中来てくれたようで、予定のある専務たちは帰って行った。なんとなく不完全燃焼な感じがして僕は申し訳ない気がした。
また寝る時に自分を責めてしまうかもしれないな。
気がついたらあねさんの友達も帰っていた。嵐のような人だった。
嵐の後には嵐
昼ごはんを食べ、専務やあねさんの友達などが帰った後、残ったのはお孫さん達だけ。
僕はお孫さん達に引っ張られ、折り紙をしたり一緒にゲームをして遊んだ。
特によく懐いてくれている下のお孫さんはこの間の落下肘打ち事件に懲りず、僕の肩に登り修行じゃ修行じゃと、肩車を要求してくる。
その度に要求に応えて肩車をしていたのだが、僕も33歳のいいおっさん。結構しんどくなり、芋の手伝いをしなきゃと手伝いに逃げた。
先生はと言えば、サイフォンの原理を使って、鯉の池の掃除をしていた。そのホースの中を時々通る池のコケを見るのが楽しいらしく、僕にひっついていたお孫さんはホースの方に行ってくれた。
グッジョブ、サイフォン。
そんな昼下がりの1日。
うな丼のタレ
ふう。結構長いこと文章を書いた気がするが、やっと夕食である。結構ヘトヘトになった。そんなヘトヘトの体を癒やしてくれるのは、そう、昨日のイベントのご褒美に、と先生が買ってくれたうなぎだ!
光り輝いている!!
このうな丼にかけたのタレは、先生がお手製で作ってくれたものだ。すごいよね。料理も上手とか、非の打ち所がないよ。
…が、しかし。
僕はすごく美味しいと感じたが、みんなはかけすぎて「少し甘辛すぎる!ノドが渇くよ、じいちゃん!!」と非を打ち出していた。
まぁ、茶碗のサイズが違うものね。僕のデカいどんぶりではちょうどよかったのだけれど。ぷふー。今日はなんだか食べてばかりだ。
ラリホー、ラリホー、吉野川温泉
うな丼を食べている時に、折り紙長男が「じいちゃん、今日、お風呂はどうするの?」と聞いた。
先生が「一緒に風呂入りに行くか!?」と尋ねると、2人のお孫さんは大喜び。うな丼を口へかき込んで入れる。
お風呂の準備は万端。みんなで軽自動車に乗り込み出発!助手席に乗った僕は、後ろの席に乗った子どもたちと話そうと後ろを振り返る。
…う、嘘だろ?
もう寝てる。車が出発して1分も経たないうちに2人はグースカ寝てた。子供はすごい。
吉野川温泉に着き、お孫さんたちと一緒に入浴。折り紙長男は僕の胸毛を見て、「汚ねぇー!」と罵倒してきた。グサっと刺さる。ぷえ〜。
まぁ、僕としては子供と一緒に入浴するのに夢見ていた所があったから嬉しいんだけどさ。なんとなく自分の子供が生きていたらこんな時間もあったのかなとしみじみする。
肩車次男はお風呂にあった鉄の棒で逆上がりをしようとして失敗。バシャーンと大きな音を立ててお湯に落ちる。
またも泣いてしまうかなと思って心配すると、顔をゴシゴシ拭きながら、あー楽しかった!とニッコリ笑う。隣のオッさんもそれを見て笑っていた。なんとなく幸せな時間。
お風呂を終えて山に戻る。
みんながお風呂から上がった後、僕らはみんなでスーパーに行った。
子供らは好きなお菓子を1つだけ買っていいとの事で、折り紙長男はスルメイカ。肩車次男はポケモンチョコを選んでいた。
やっぱり性格の違いは出るよね。折り紙長男、オッさんのような性格に驚くばかりなり。
そして山を登り始める。折り紙長男は後ろの席でグースカ眠ったが、肩車次男は前の席に座り、動物発見タイムを楽しむ。
すごく眠そうであったが、肩車次男の頑張りに応えるように、鹿とタヌキ、ウサギ達は飛び回る。
「肩車次男に会いたいって言ってるんじゃわー」と先生は高らかに笑う。本当に幸せな時間だ。
「のぐちさん、ちゃんと撮れたん?」
そう聞かれて、iPhoneで撮った↑この写真を見せると、「のぐちさん、全然ダメダメだなぁ〜」と得意そうに言う。ち、違うんっすよ。ちゃんと撮れたやつもあるんすよ。
…探してみたけど、なかった。
子供は正直だ。
満月の夜に月明かりの下、楽しむナイトドライビングは楽しかった。ちなみにあねさんは最初から最後まで爆睡。
四国歩き遍路日記33日目まとめ
今夜は月がとても綺麗だ。
小屋に着くと、エネルギーが切れたようにお孫さん達はそそくさと布団に入って眠った。
それを寝かせるという名目であねさんも姿を消したが、そのまま寝たらしく帰ってこなかった。
先生と僕は2人で少し話をした後、眠りに就く。
1日がやっと終わった。長い1日だった。朝の尾根の体験から始まり、専務たちとビジネスの話、そしてパワフルおねえさんの出現に、子供と温泉に入って終わる。
毎日が充実している。本当にここでの時間は大切な経験だ。
そんな事を思いながら眠る『四国歩き遍路日記33日目』でした。
心配していた不完全燃焼の悩みなど起きず、僕は肩車の修行によりバタンキュー。お布団に沈み込むように意識が遠のいていく。