『しあわせの書』は遊び心満載のミステリー。種明かしは絶対にダメ。

前回、中島らもの『ガダラの豚』が素晴らしすぎて、次に読む本読む本面白くなくて完走出来ずにいたところ、Twitterでこの『しあわせの書』を教えてもらったので読んでみると素直に面白かった。

※この本の一番最初のページには『読者の幸せのために 未読の人に「しあわせの書」の秘密を明かさないでください』とありますので、秘密には触れずにレビューしていきます。

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あらすじ

一冊の本、「しあわせの書」の紹介からこのストーリーは始まる。しあわせの書はどうやら、新興宗教団体「惟霊講会(いれいこうかい)」の出版局から刊行されている書物であり、おもにその教祖である桂葉華聖(かつらばかせい)の事について書いてある。

桂葉華聖には小さい頃から読心術という不思議な力が備わっており、その能力はやがて宗教団体を立ち上げるまでとなった。戦後その団体は徐々に大きくなっていき今では全国に180万人もの信者がいると言われるほどの教団になった。

しかし、どれだけ不思議な力が備わっていようとも人は老いていくもの。桂葉華聖の力は薄れていき、二代目の教祖の事を考えなくてはならなくなった。

候補は二人。一人は自分の孫である清林寺忠成(せいりんじただしげ)。普通に考えると血を継いだものであるこの清林寺が継ぐのが妥当なのだが、どうにもこの男には人の上に立つような器がない。そこで候補として挙がってきたもう一人が信者の中の一人の女。この女は昔の桂葉華聖に非常に似たところがあり、読心術が出来る。

実際に桂葉華聖の目の前でしあわせの書を開き、適当なページの最初の文字を頭の中で思い描いてもらい、それを見事いい当てるという技を披露した。それからというもの、桂葉華聖の悩みの種は血を優先すべきか力を優先すべきかという事だった。

そしてここにもうひとつの集団。集団と言ってもたった3人の放浪者の集団だが、ヨギガンジーという正体不明の外国人を師匠とし、第一の弟子の不動丸、第二の弟子の美保子。この3人は恐山に来ていた。そこで彼らは惟霊講会という宗教にハマってしまった妹の生死を知りたいという男に出会った。

彼が言うには妹は惟霊講会にハマってしまい非常に困っていたのだが、その事を知り合いの惟霊講会の幹部になんとかしてもらえないかと頼んだところ、パタリと妹はその宗教団体を退会した。しかし、その後、今まで行ったこともない温泉地へ向かい、そこで大火事の事故に会い死んでしまったとのことだが、遺体が出てこない。そこにはただ妹の名前が入った「しあわせの書」が落ちていただけである。

本が一冊落ちていただけで死んだものだとどうしても納得が出来ない男は恐山のイタコにお願いし、占ってもらったのだが、その占い一つでもどうしても腑に落ちず、ガンジーにもう一度占ってもらえないものかとお願いしに来たのだ。

また、週刊誌には死んだはずの大物女性歌手によく似た人を見たという記事が載っていた。その大物女性歌手も「惟霊講会」の熱心な信者だったようである。そしてさらには後継ぎ候補である清林寺忠成の事故死。

あまりにも不思議な事が重なった「惟霊講会」に興味を持った第二の弟子、美保子は「惟霊講会」に侵入を試みる。しかし、あえなくも警備員に捕まってしまう。そしてガンジーと不動丸も惟霊講会のパーティーの食事に手を出したとのことで盗難の罪で警備員に事前にとらわれており警備室で顔を合わせた三人だったが、なぜか桂葉華聖に呼び出され、ひとつのお願いをされる。

ヨーガの使い手であるガンジーはそこそこ名の知れた術者。彼の講演を昔見たことがある信者がおり、信者の話を聞いた桂葉華聖はガンジーに断食の方法で、ある人々の優劣を決めてくれないか?とのお願いだ。

ある人々というのはもちろん、後継者候補の事である。

ガンジーはこの申し出を受け入れ、21日間の断食合宿なるものを開催する。しかし、そこにはとある悪の魔の手が潜んでいたのである…。

ミステリーとしては、まぁまぁの出来。エンターテイメントしては素晴らしい出来

この本はマジシャンでもある泡坂妻夫が書いたトリック満載の文庫で、ぜひ手に取って楽しんでもらいたいエンターテイメント性に富んだ本です。

僕は前回、

『ガダラの豚』を今すぐ読むべき。中島らもはこんなに面白い小説家だ

中島らもの『ガダラの豚』をTwitterでも絶賛していたんですが、そこで@you_you_1さんに本書を教えてもらい、奇書だという事で読んでみたのですが、奇書と言われた理由がわかりました。その理由はネタバレになってしまうのでここでは話せないのが残念ですが…。

前回のガダラの豚があまりにもヒットしすぎでどうにもどんな本を読んでも、途中で辞めてしまった僕が、この本はなぜに1日もかからずに読破出来たかと言えば、まず第一に内容がものすごくガダラの豚に似ているんですよね。

ガダラの豚に出てきたミスターミラクルという呪術をすべてトリックで説明出来ると言っていたオッチャンが大好きだった僕ですが、この本の主人公であるガンジーという正体不明のオッチャンも同じスタイルで事件を解決していきます。しかも、不動丸っていう助手もガダラの豚に出てきた道満くんに似ています。

そして文体的にも非常に読みやすい。惟霊講会の謎が早く知りたくて、しあわせの書の謎が早く知りたくてページをめくってしまう。

まぁ、それで黒幕とかはある程度予測出来ちゃうし、犯人も案外簡単にやられちゃうのでミステリーとしてはまぁまぁと言った具合。しかし、この本はそれだけで終わるわけではない。

最後に著者からの種明かしよろしく、この本の仕掛けを教えてくれて「え!?マジで!?」と読み返してみるとまさかの事実が発覚する。そしてこの小説を読んだことにより、僕やあなたは一つの手品が出来るようになるのです。

実にマジシャンにしか出来ない小説でした。

違った意味でのエンターテイメント性のある文学です。

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とりあえず、気に入った文章の引用

いつもより少ないです。

惟霊講会を見ると、典型的な新宗教の発展過程が判りまして、最初は教祖の特異な霊能力と人間的な魅力で多くの人を引き付けておき、それからその中心になる教義を固めていって信徒を殖やし、その信徒には現世のご利益を与える

「先生、断食というのは、色色な病いを治すそうですね」「左様。一番効果があるのは寄生虫でしょうな。何しろ、肝心な食物がなくなるので、虫らは呆れ返って出て行ってしまう。断食は身体の大掃除などといわれるゆえんで」

世の中には、奇跡を起こしたいばっかりに、とんでもない費用やエネルギーを使う人がいるものですよ

物を食うということは、異なる生き物を殺して自分の配下に従えるという手続きですから、国と固となら戦争と向じで、大変な労力が必要。それを除いてしまえば、身体としては大いに楽なわけで、その分がちゅ病気などの治癒能力を高めるという結果になるようです

引用:「しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術」泡坂妻夫著(新潮文庫)

まとめ

ネタバレしないように書きました。多分、コレを読んでこの小説がどんなトリックを含んでいるのかはバレていないはずです。まぁバレるも何もこのネタバレは実際にこの本を手に取ってみない事にはわからないんですけどね。

表紙がちょっとアレなんで敬遠しそうな文庫ですけど、文章も読みやすいし、好奇心をひっぱっていってくれる文体なので軽く読める読み物としても最適。そして読み終わった後の話題作りとしても最適な小説ですので、ぜひ手に取りお確かめくださいませ。

手に取らない事にはこの謎はわからない…。

ではでは。

…あ、この小説の主人公のガンジーさんはシリーズ物の登場人物だったんですね。知らんかったですが、他の作品も読んでみようと思いました。

しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術 (新潮文庫)

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