四国歩き遍路日記16日目。この旅の記録は以前旅をしながら公開していた日記を諸事情によりお蔵入りしまったものを再編集して公開したものです。
15日目の日記でお遍路再開の目処について語っている所がありますが、振り返って書いている今では、その結果を知っているわけです。言わばこの記事を書いている僕はタイムマシーンでやって来た未来人。
未来を知りながら、その時の感情を書き表すというのは、やってみると意外と難しいもので、どうしてもその当時の自分ではなく、現在の自分の感情で書いてしまう。
そうなると旅の臨場感とかがなくなっちゃう気もするのですが、それでもこれを読んでくれるあなたに伝わって欲しい事などは消えないように注意したいと思います。
ではでは、再編集版よろしくどうぞ。
四国歩き遍路日記16日目のまえがき
四国歩き遍路日記16日目になりました。こちらの天気はおかしいです。台風接近中。「梅雨の時季より雨降ってるなぁ…」と先生も言う。
しかし、それだからこそ出逢えた出来事が今日はありました。それではスタートしていきましょう!
※復刻にあたり、旅先で沢山写真を撮ったものを、ここで紹介していないものも含めてまとめて高画質でアップすることにしました。Facebookの方へアルバムを作りましたのでよろしければ御覧くださいませ。
スズメバチの夢
夜中に度々目がさめる。耳元でブンブン言うのだ。それが夢か現実か。よくわからない。
見る夢は必ず決まって一緒。スズメバチが僕が寝ているところの周りを飛んでいる。僕は布団をかぶって度々外を見回す。
カチカチカチカチ。スズメバチが威嚇音をだす。僕は、ひょえーと言いながら布団をかぶって防御体制に入る。そして目がさめる。
再びブーンブーンと耳元で言う。僕は夢の続きを行うように布団をかぶる。そしてまたスズメバチの夢を見る。
この話を朝起きてあねさんにすると、「昨日ゴキブリを見たから、それでそんな夢を見たんとちゃうん?」と推測していた。
先生にこの話をすると、スズメバチに刺された話をしてくれた。スズメバチに刺されると熱湯をかけられたような、痛いというより熱いという感覚が走るらしい。
本日は曇り。だいぶ肌寒い朝になってきたようだ。
作務衣を着る金髪ノッポ
仕事の手伝いにもちょっとずつ慣れて来た。ただひとつちょっとした問題があり、僕が持ってきているズボンはジーパンとパジャマ用のハーフパンツだけなので、作業中に汚れるとなんとも…という感じだった。
そこで先生は作務衣という物を出してきてくれた。山ごもりしている陶芸家とかが着てそうなアレだ。
作務衣を着てみる僕。虫がブーンと首筋を通る。昨日の夢を思い出し、ひょえーと言いながら写真に撮られる。
作務衣はだいぶ動きやすく温かい。僕は腕が長いため、腕だけつんつるてんになるんだけども。まぁ、作務衣って作業をする為に腕が短く出来ているのよね。
これで仕事の手伝いもしやすくなった。
ブログを書いたり芋を剥いたり…
どうやら台風が来ているらしい。これ、もしお遍路を続けていたらどうなっていたのだろう。続けていたらって言うか歩いて先に進んでいたらって事ね。
お遍路の旅を辞めたわけじゃないのだよ。うん。
とにかく今日の朝は雨があがったが、また夕方から雨の予報。これはここで滞在しなさいという事だと勝手に解釈する事にしよう。
こうも雨が続くと先生の仕事も滞る部分があるらしく、せっかく作務衣を手に入れた僕でも、手伝える部分は少ない。剥いた鳴門金時を再びチェック。
しかしあまりやる事もないので、僕はあねさんの元でブログ執筆の手伝いをしたりして時間を過ごした。
家でパソコンを使っていると天気などほとんど関係ないけれど、ここでの生活は天候に左右される。地球に生かされているのだなぁ〜という気持ちを感じられる場所だ。
アイディア次第で…
さてさて。以前調理過程で出た鳴門金時の残り滓を濾したものをパンに塗りたくって焼いてみると、とても美味い芋あんパンが出来上がったという事を書いたと思う。
三日前の事だ。あの時、生クリームとか入れて混ぜたらお菓子に使えそうな気がしたという事を書いたと思うのだが。暇なのでちょっと考えてみることにした。
生クリーム。あれってスーパーで購入するにしても意外と高いよね。
毎回残り滓は出てきてしまうものなので、その度に生クリーム代金が飛んで行くのはちょっと。もっと身近にあって、持て余しているものを利用出来ないものか。マイナス×マイナスはプラスになる的な。
そんな時である。
コーヒー用のクリームが無数にあるらしいのだ。
…というのも、先生たちがコーヒーを日々飲んでいる事は周知の事実なので、贈り物としてコーヒーセットをいただく事が多いのだけれど、ミルクを入れる人は誰もいないので、クリープやらマリムが大量に残ってしまうのだ。
良し!これだ!鳴門金時にコーヒーのクリームを混ぜパンに塗ったら美味しいかもしれない!
そしてやってみた。
どうじゃろう?
…見た目的にはマーガリンを塗りたくっているようにも見えるが。
実食
…
…
…
う、うんまーーーーーーっ!!!
これや!これなんや!これは正にスイートポテト!
これは危険だ。ついつい食べてしまう。気がつけば僕はビンひとつ分のマリムを消費していた…。あぁ。太る。
痴呆をはじめに出した国
僕がそんなパンを頬張っていると、先生はかまどの前でこんなに話をした。
「痴呆が初めて発見された国はどこか知っているかね」
えー…。日本ですか?
「北欧よ。ノルウェーとかスウェーデンとかそこらへんの。社会保障がごっつい分厚い国よ」
へー!社会保障が厚いという事は長生きする人も多いからかしら?
「ワシはな痴呆ってのは環境が生み出すと思っている。ワシの近くにも身内の痴呆で相談しに来る人がおるんじゃ」
ふむふむ。
「その話を聞くと、老人ホームのような施設に入れた瞬間に痴呆が進む場合が多いんよ」
あー。なるほど。そういう話は良く聞きますね。
「逆にな、老人ホームから身内が引き取り、少しずつ責任を持たすような家事手伝いをしてもらうようにすると正常に戻ってくる」
ほえー。
「歳をとって出来ることが少なくなると、周りが仕事を与えんようになる。徐々に追いやって行って本人自体も人と関わることが億劫になる。そうするとごっつい痴呆が進む」
僕はそれを聞き、卵に毛が生えるような、鶏が先か卵が先かの話かもしれないけど、社会保障は痴呆を生みだす仕組みかもしれないなと思った。
安心すると油断する。緊張を張り詰めていた方が意外と体は健康だったりもするわけだし。
どんな事も、ひとつの問題をクリアすると新しい問題が出てくる。
でも、だからと言って保証が全くないのも日々心配がついてまわって精神がまいってしまいそうだし。
難しいものだね。
ま、とりあえずは生きがいや責任感を感じながら生きる事は非常に大切って事だよね。
空から見下ろした時に1番汚い国…
そー言えば痴呆つながりで地方創生について話す事があった。
先生は昔、世界中色々な所を飛行機で飛び回った。その時に空から国を見下ろしてビックリした事。
東京が1番汚く見えたというのだ。密集された家。家。家。
「ワシにはみかんの木を枯らせるカイガラムシのように見えたんじゃ」
と言っていた。
カイガラムシ。調べてみると、ぶわーっと、鳥肌が立った。
こりゃーダメだ。トライポフォビア(集合体恐怖症)の僕にはゾッとする画像がスマホに広がる。
1ヶ所に集まって、自分が住むみかんの枝を枯らしてしまうカイガラムシ。花の都大東京に憧れて集まる人々。うーむ。深い…。
あねさんも昔、旅行で都会に来た事があるという。その時に感じたのは、都会はお金がなかったら全然面白くない事。
そして道には何もゴミが落ちていないのに、なぜか旅行から帰ったら咳が止まらず寝込んだそうだ。
「あれだけ人が沢山おるのに誰が掃除しとるんやろ」
と疑問にも思っていた。
僕はこっちに来て、土地広いなー。でも人が少ないなーと思った。これだけ広い土地があるんだから、都会で疲れた人はこっちに住んだらいいのになーとも感じた。
それが出来ないのはやっぱり不便さに目が行ってしまうからなのかもしれないな。まー、僕はこっちに来てからまだ日が浅いけど、精神状態はすこぶる快調です。イイよ、田舎は。みんな来たらいいのに。
…と。言いたいのだが。
毎回こーゆー記事を書いている時に、気がかりになる事がある。
都会の方に住んでいる人が「田舎ってイイよなー」って書く事はこっちに住んでいる人は気分を害さないのだろうかという事だ。
僕は言ってみればイイ面だけに目を向けて、悪い面を知らない人間なのだ。それをあねさんに聞くと、
「住んだら大変だなーって思う事はあるけど、まー、気にせんでええんとちゃう?年寄りは田舎ってイイですねーって言われると喜ぶでー」
と言っていた。
…という事で、僕も言おう。田舎はイイ!
家賃が安いのも、僕みたいなネットで仕事をしている人にとっては大きなメリットになると思う。人とすれ違った時に挨拶してくれるのも、僕の心には優しい。
柿食いながら銭湯へ
さらに田舎がイイなと思うのは、物々交換がよく行われる事だ。もうこのブログでは何度も語っている事かもしれないけれど、お金が登場する前、人は物と物を交換して暮らしていたわけでしょう?
そこには相手を思う心があっただろうし、金払ってるんだからお客様は神様だー!と偉そうにする人もいなかったと思う。
この場所には心がある。その心が僕を軽くする。
別に都会に住む人が優しくないとか心がないとか言ってるわけじゃないんだ。なんか、こっちの人の心は僕が今まで出逢ってきた人のそれと違うんだ。
うん。
という事で、街に降りてきている途中でおっちゃんにもらった柿をそのままかじって銭湯へ向かう。
とても甘い。
銭湯は世論の縮図、デモクラシー
本日行ったのは、ふいご温泉。2回目。大人550円。まだ日が明るいうちに行ったので隣に流れる緑の川が綺麗に見えた。
ここに来てから色々なお風呂屋さんに連れて行ってもらったが、ひとつ思った事がある。銭湯や温泉で話している人の会話が面白いのだ。
僕はお湯に浸かり、目を閉じながら耳だけを傾ける。
最近は選挙前なので、政治の話で持ちきり。
とあるおっちゃんの声が響く。
くにゆがむ〜とうだいほうか〜さきはやみ〜
それを聞いた周りの人がドッと笑う。
僕は、ん?と、頭の中で考えてみる。どういう事だろう。
くにゆがむー、って所は国歪むだろう。灯台放火?東大放火?うーむ。さきは闇かな。病みかも。
うーむ。
湯の中でウンウン言いながら考えていると、また別のおっちゃんが怒り口調で話しているのが聞こえてくる。
「安倍晋三さんは立派…アベノミクスはすごい…。ワシの孫が…」
よく聞こえない。
それに反論する別の声。
「安倍はなー、名も聞いた事ないような大学行っとるけん、バカなんよ」
ふむふむ。確か成蹊大学だったよな。多分、こっちの人は知らないかもしれないな。と僕は1人で納得する。
「しかしなー、いい大学に行ってもバカなやつがおるけん」
うーん。申し訳ない。多分それは僕ですな。早稲田行っても1度も企業に就職せず、1人でプラプラ旅してますよ〜。
そこでまた最初のおっちゃんが詠う。
くにゆがむ〜とうだいほうか〜さきくらし〜
お。語尾が変わったな。と僕は頭でなぞる。先、か?うーん。暗し?暮らし?
そしてまた周りでドッと笑いが起きる。
しかし、そこに反論する安倍派のおっちゃん。僕は目を開き、安倍のおっちゃんの乱れたハゲ頭を眺める。
「なんやー、あんた反体制派なんかー!!」
「えー?なんてー?そんな事一言も言っておらんじゃろう」と、詠み人知らずのおっちゃん。
僕はそこでうーむと考える。なんでこの句が反体制派になるんだろう。
安倍のおっちゃんは徐々に語調をあげ喧嘩腰になっていく。
安倍「その句の中で政府の失態を叩いておるじゃろー!」
歌人「いやいや、ワシはただ将来を憂う歌を詠っとるんじゃ」
安倍「将来を憂うってなんやー!!」
歌人「最近天変地異がすごいけん、雨は長く降りよるし、地震もこわいけん」
安倍「地震は東北で良かったと復興相の今村さんが言ってたじゃろー!別の所ならいいけん!なんぞ怖ない!」
歌人「いやー、ワシはそんな事言ってるんやなんいんよ。南海トラフに起きたら岬の灯台が火事になり、なんも見えんくなる。ワシは漁師やけん、海の被害を考えて岬での暮らしどうしようって思ってしまうだけじゃ…」
あれ…。僕はそこでふと思う。東大。確かニュースで話題になってた今村っていう人、東大じゃなかったっけか?何学部だったっけな。
安倍「ほならなんや、違うんか」
歌人「そうや。ワシは自分の事でいっぱいいっぱいで政治なんてなーんも興味ないけん。ほならまた」
そう言うと、歌人のおっちゃんはゆらーりと湯で曇った窓の近くに置いてあったタオルを取り、風呂を出て行った。
その時にポツリとつぶやく。違うじゃろ、このハゲ、と。
温厚な歌人が小さい声で毒づいた事に1人で笑ってしまったが、それを耳にした時にまた頭の中で違和感があった。あれ?このハゲってどこかで聞いた事あるんだけど。
あ。豊田真由子か。
うーん。
違うだろ〜このハゲ〜!で有名になった人だったよな。あれ?あの人も確か東大だった気がする。あの人そのものよりも、あの人の夫のコメントに感銘を受けたのを思い出した。
僕は少しのぼせて来たので、タオルを取って出ようとすると、歌人のおっちゃんがタオルを置いていたガラスに何か書かれているのを発見した。
国ゆがむ 灯台(東大)放火(法科) 岬(先)暗(暮らし)
あー!!
なんだ、あの歌人のおっちゃん、確信犯じゃないか!(笑)
僕は体を拭き、ササっと着替えスマホで今村雅弘と豊田真由子を検索してみた。
あー!東大法学部卒業だ!
すげー!なんじゃあの歌人のおっさん。むちゃくちゃ頭良いじゃないか!
僕は歌人のおっさんの機転の効かせ方に感動し、お風呂って面白い場所だなーって思った。
結論。世の中にはすごい能力を持った人が沢山いる。そして、ドッと笑っていた人は博識な人達だったんだな〜。僕はすぐにわからんかったし。
僕もふと頭に一句浮かんだ。
灯台は放火の為に有るで無し。
野口本人麻呂
ナームー。チーン。
…力はさ、光を照らす為に使って欲しいよな。最近ニュースで話題になる人はみんな東大法学部ばっかりなのに調べていてビックリした。舛添さんとかもそうだったし。
ま、現役東大法学部の人は言われのない批難をされそうで大変だ。みんながみんなそうじゃないのは理解しないとね。
風呂を出て小屋に戻るや鹿に会う
先生たちも風呂から出てきたので、途中マルナカで今晩のご飯を買う。
徳島といえば金ちゃんヌードル!とりあえず保存食にひとつ買おう。
僕が今回選んだお菓子はこれ。金長まんじゅうと大山の芋モナカアイス。買ってからアイスは鳥取のやつだと気がついたけど。
買い物を終え、小屋へ戻る。
その途中、でっかい鹿をみる。写真上では光る流星鹿みたいになっている…。伝説上の生物の出現。こっちではそんな事が日常茶飯事。車に乗っているだけで面白い。
本日の夕食ハモと餃子とか…
今日の夕飯はカニクリームコロッケと、
ハモ!そして…
餃子ー!!
先生が作った商品である唐辛子をつけて食べると口の中でフワーと良い香りが広がる。うまー!
夜になり、自分の道を知る講義
ご飯を食べ終わると、僕が作ったブログの記事の内容を充実させる為に3人で考えながら作り上げていく。
先生が生み出し、姉さんが書き落とす。そしてそれを僕が最後にまとめる。
先生やあねさんはえらく僕を褒めてくれる。絶賛に近いほどの勢いだ。なんでも出来るのだからそれぐらい出来て当然な感じで捉えられる事が多かった僕は、褒められ慣れてない。
なんとなく歯がゆい。しかし心地よい。天狗になっちゃダメだけどさ、やっぱり褒められると嬉しいよね。
それと僕がまとめた物を読んだあねさんがそれを受け取って新しい解釈を自分で発見した。
そーか。僕がやっている事はこれでいいのだと思った。完璧を提示する必要はない。相手が受け取って、補完する。それでいいのだ。
完璧主義で納得するまで時間がかかり、記事1つ書くにも膨大な時間がかかってしまう僕。
もう少し肩の力を抜こう。
四国歩き遍路日記16日目まとめ
今日のお風呂屋さんの出来事はきっとずっと忘れないと思う。
これほど、ほほーーー!!!!と唸ったのは初めてだからだ。すげーよ。人の頭って。
松尾芭蕉とか種田山頭火とか小林一茶とか、俳人の頭の中ってどうなっていたんだろう。
短い句に沢山の意味を持たせる。1つの物事は沢山の意味を持つ。先生のブログでも俳句を考えるみたいだし、なんというかすごいよね。頭が柔らかい。
僕の凝り固まった現実視覚主義、見えたものしか信じないという考えが少し和らいだ気がしました。
ではでは『四国歩き遍路日記16日目』の出来事でした。