『孤島の鬼』をずっと前に友人の彼女に勧められて、本自体は買ってあったのですが、まぁ色々とあって読まずじまいで本棚に飾ってありました。5年ほど熟成され、もうそろそろ読んでもいいかなと思い、読み始めてみると…。
10秒でわかる『孤島の鬼』のストーリーのまとめ
職場で恋に落ちた主人公、蓑浦。お相手は3歳の時に親に捨てられはしたが、育ての親に大事に大事に育ててもらった初代という女性。上手くいっていた二人だったが、初代に猛烈に求婚を迫る諸戸という男性が現れ事態は急変。諸戸は蓑浦の学生時代の先輩で蓑浦に迫った事のある同性愛者の男だった。ある日初代が殺されてしまい、恋人の復讐を誓った蓑浦は犯人を探る為、探偵を雇う。が、その探偵も殺されてしまう。蓑浦は諸戸の嫉妬心を深く疑うが、物事はそう簡単な話ではなかったのだ…
もし、あなたに喫茶店で『孤島の鬼』ってどんな本?あらすじは?と聞かれたなら…
…そんな事を「孤島の鬼」についてカフェで話すと思います。
『孤島の鬼』で気に入った表現の引用
だが、何をいうにも、私には文章の素養がない。小説が好きで読むほうはずいぶん読んでいるけれど、実業学校の初年級で作文を教わって以来、事務的な手紙の文章のほかには、文章というものを書いたことがないのだ。なに、今の小説を見るのに、ただ思ったことをダラダラと書いて行けばいいらしいのだから、私にだってあのくらいのまねはできよう。
ほんとうのことをほんとうらしく書くことさえ、どんなにむずかしいかということを、今さらのように感じたのである。
私は、今からたった十三、四時間前に、新橋の鳥屋でさし向かいに坐って、笑い興じていた初代を思い出した。すると、内臓の病気ではないかと思ったほど、胸の奥がギュウと引締められるような気がした。その刹那、ポタポタと音を立てて、仏の枕元の畳の上に、つづけざまに私は涙をこぼしたのであった。
私は草の上に倒れて、異常なる興奮にもがき苦しんだ。「死にたい、死にたい」とわめきながら、ころげまわった。長いあいだ、私は、そこにそうして横たわっていた。だが私は、恥かしいけれど死ぬほど強くはなかった。或いは、死んで恋人と一体になるというような、古風な気持にはなれなかった。その代りに、私は死の次に強く、死の次に古風な、一つの決心をしたのである。
恋こそ奇妙なものである。それは時には人を喜びの頂天に持ち上げ、時には悲しみのどん底につきおとし、また時には、人に比類なき強力を授けさえするのだ。
私は慰める言葉もなく、わずかに彼の手を握り返して、千万の言葉にかえた。
どんな冒険でも、苦難でも、実際ぶつかってみると、そんなでもない、想像している方がずっと恐ろしいのだ、ということを悟った。
この日頃の奇怪なる経験は、いつの間にか、私を冒険好きにしてしまった。戦争と聞いて肉がおどった。
こんな時には、ただあせったって仕方がない。ゆっくり考えるんだね。足で出ようとせず、頭で出ようとするんだ。迷路というものの性質をよく考えてみるんだ。
徳さんがどうして生きていたかと、不審にたえなかったが、なるほど、彼はカニの生肉で飢をいやしていたのだ。私たちはそれを徳さんに貰ってたべた。冷たくドロドロした、塩っぱい寒天みたいなものだったが、実にうまかった。私はあとにも先にも、あんなうまい物をたべたことがない。
引用:「孤島の鬼」江戸川乱歩(東京創元社)
まとめ
いやー、買ってからかなり時間経ちましたし、正直、昔の作家だからというので読みにくいのでは?と敬遠してました。江戸川乱歩も短編集しか読んだことなくて。でも、やはり友達の彼女が「人生最高の一冊」とおすすめしてくるだけはありました。
これほどまで読みやすく、読み進めるほどに加速していく物語は珍しい。やっぱりすげーんだな。らんぽ。コナンくんが名前を拝借しているだけあるよ。
レビューも相当多いですし、沢山の感想もブログなどで発見できると思います。グロテスクという言葉がこの作品の評価で使われる事が多いですが、グロテスク耐性がない人でも大丈夫な作品だと思います。そこまでうわーーーーーってほどでもありません。
また、BLミステリーとして取り上げられる事もありますが、そういう趣向がない人でも、諸戸はかっこいいと思える青年でしょう。逆に僕には主人公がへなちょこ過ぎてちょっと…って思いましたが。うん。諸戸、不遇だったけどかっこよかった。かっこよかったから、不遇だった。最後はあっさりしすぎな気もしたけど、何度も読み返せということでしょう。
ではでは、そんな感じで、孤島の鬼でした。なかなか曲者だとは思いますが、先入観や自分の中の常識は取っ払って作品として楽しんでもらいたいです。