【ブログ小説】映画のような人生を:第二十三章「変化」

ブログ小説の二十三回目の更新。変化について。

変化と言えば、10年前の自分と今の自分はどれだけ変わっているでしょうか?小さい時には、10年とはものすごく長い年月のように感じていたけれど、実際に自分が10年歳を重ねてみると、思ったほど何も変わっていないという人が多いのではないでしょうか?

多くの人には変身願望というものがあります。自分をもっと変えたい。変わりたい。それは生活をもっと良くしたいという欲求からくるものだと思いますが、もし実際に自分が本当に大きく変化してしまったなら、人はそれを受け止められるのでしょうか?

なんでもないようなことが幸せだったと思う。という歌詞の歌が1990年代に大ヒットしました。実は何も変わらない事、現状維持こそが幸せの出発点なのかもしれません。

…という事で、ここからは過去に書いた小説をブログ形式に変換して投稿していく企画。映画のような人生をというブログ小説をお送りします。

全部で39章分あるのですが、今回はその中で第二十三章「変化」をお送りしたいと思います。よろしくどうぞ。

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【ブログ小説】映画のような人生を:第二十三章「変化」

ブログ小説-映画のような人生を-変化-あらすじ

 結局、ぼくはそれから何度も名前舞踏会に通った。お酒を飲みながら、毎回誰かと知り合うたびに自分の自己紹介を行い、その匿名性を楽しむ。社交の場を楽しむ。そして人との関わり方を学ぶ。

 この場所では初めの説明会で神田さんの言った言葉がすべてだった。自分は特別であり、相手も特別である。相手は自分を大切にしてくれるし、自分も相手を大切にしたいと思う。誰もぼくを疑ったりしないし、ぼくが言った言葉をそのまま捉えてくれる。まさに理想の世界が存在していた。

 ただ、ぼくは名前舞踏会で自分の名前を使い続けた。それは親がつけてくれた名前を捨てるというのがなんとなく申し訳ない気がしたという理由もあったが、大きな理由としては不思議なことにメンバーには顏馴染みというものが出来なかったからだ。

 名前舞踏会には毎回百名近いメンバーが集まった。しかし、どこにも日下部さんや伊藤君は見当たらなかった。その二人だけではない。回数を重ねるたびに多くの人と知り合いになった。だが、どの人とも名前舞踏会で再び会うという事がなかったのだ。

 ぼくを知っている人がいないのであれば、ぼくは自分の名前を使い続けても構わないという事になる。もちろん例外はあった。それは名前舞踏会以前に出会った人は変わらずにぼくの周りに存在するということだ。

 運営側の千秋さんや高橋さんは必ず進行役として参加していたし、千葉も時々、ぼくと一緒に名前舞踏会に参加した。それと加藤についてもたまに見かける事があった。しかし、名前舞踏会で初めて出会った人達とは誰とも二度は会えなかった。

 最初のうちはそれが非常に奇妙に思えた。だが、それも千葉の言う、知らない事に対して抱くという防衛本能なのだと思うようになった。社会に出たのであれば、このような状況は沢山あるだろう。

 一度出会った人とはもう二度と会えないかもしれない。でもだからこそ、その瞬間、瞬間の出会いに感謝する。一期一会の精神だ。そういう感覚を社会に出る前に学べる場所なのだ。

 ぼくは主に土曜日に参加していたが、他の日にも開催されているのかもしれない。もしかしたら他の場所でも開催されているのかもしれない。

 人間は自分の知識の中だけで判断してしまう事はよくある。ガリレオ・ガリレイが地動説を唱えた時ですら、周りは自分の知識だけで判断し彼を弾圧した。しかし結果はどうだろう。それでも地球は動いている。自分の知識の中だけで判断しては本質を見失う。

 サークル内で二度と会えなくなる理由なんて考えれば沢山出てくるものだ。別に珍しいことではない。よくわからない事にも寛容に対応できるようになってきたのは成長と言えるのかもしれない。

 それにぼくには千葉がいる事も大きかった。千葉はぼくがどこにいてもひょっこり現れた。連絡を取りたいなと思うだけで偶然目の前に現れるのだ。本当に不思議な坊主だ。その千葉に関して言えば、土曜日は基本的に都合がつかないらしく、毎週参加する事は叶わなかったが、ぼくが本当にいて欲しいと望む時は不思議と一緒に参加出来た。

 何度も名前舞踏会に参加し、様々な人と話すうちにぼくは自分が良い方向に変わりつつあることを認識した。人と話す事に対して無理をすることが無くなってきたからだ。

 初めは自分の中で作り上げた理想の姿を演じるように人と接していたのだが、何かしらの緊張感が伴っていた。今はどうだろう。理想の姿がぼくという心を伴って歩いているようだ。いつのまにか演技が演技じゃなくなっていた。この変化は少なくともサークルのおかげだと言えるだろう。

『でも、本当のお前は一体どこに行ってしまったのだ』

 いつかのあの声が頭の中に響いた。

【ブログ小説】映画のような人生を:第二十三章「変化」あとがき

ブログ小説-映画のような人生を-変化-あとがき

いかがでしたでしょうか。今回はブログ小説の内容を受けて、変わることについてお話したいと思います。

僕はその昔、自分を変えたいとは全く思っていませんでした。自分の頭に描いた設計図の通りに人生を過ごす事しか頭になかったからです。

その瞬間、瞬間の自分が好きだったし、変わる必要なんてないと思っていました。

しかし、25歳で僕は願うことなく変わってしまいました。今では、25歳までの僕を知っている人たちに会うと、失望される事もしばしばです。

まぁ、何が僕を変えてしまったのかは、このブログ内で何回か書いたので詳しくは書きませんが、それきっかけで僕は心の病気になりました。

結果的に25歳からの僕は、自分を変えたいと強く願うようになりました。こんな自分を変えなきゃいけないと思うようになりました。

…が、しかし。25歳でそれまでの自分を失った僕には、25歳で出会えた友人たちがいます。彼らは25歳からの僕しか知らないので、僕を見て失望をすることもありません。

あまり大きな声では言えない事ですが、それまで友達という友達がいなかった僕が、初めて長く付き合っている友人たちです。

そんな彼らといることはすごく楽しく、僕はこういうのが幸せっていうのだろうなぁ〜と思うようになりました。そしてこの関係がずっと続けばいいのになと願うようになりました。

つまり、変わりたくないと思うようになったのです。

ただ、25歳近辺と言えば世間的に結婚ラッシュ。友人たちの中から一人、また一人と結婚するものが出てきて、徐々に僕らの関係は25歳の頃のままではいられなくなりました

変えたいと思ったことは変わらず、変わってほしくないと思うことは次々と変わっていく。僕はその変化に対応しきれず、さらに病気が悪化していきました。

んで、これじゃーまずいなぁ、と自転車の旅に出たり、四国遍路の旅に出たりしたわけですが、結果的に僕はこう悟りました。

その時を受け止めるしかない

僕が変わらないといけないと思うのは、過去の栄光にしがみついているから。変わってほしくないと思うのは、未来を心配しているからだと思うのです。

しかし、過去や未来どちらにせよ、今はどうしようもありません。過去は変わらないし、未来なんて誰にもわからない。それなのにそのどちらにも頭を悩ませて、今を無駄にしてしまっている。

大切なのは今を生きる事。今を素敵に生きていく事が未来を作っていく事であり、素敵な今の連続を後で振り返る事が栄光の過去なのです。

なので、まぁ、僕がとにかくやらなくちゃいけないのはその時を受け止めること。過去や未来と比較せず、その瞬間を受け止める。その瞬間に最善を尽くす事

そんな風に思うのです。

…って悟りを開いて、自分すげー!と思っていたら、すでにこの考え方って世の中にあるらしいんですよね。マインドフルネスっていうらしいですよ。

「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」がマインドフルネスの語義だそうです。

しかもこの発想は3000年も前から仏教の世界にあったようなのです。

今ではかの有名なGoogleさんが会社でマインドフルネス瞑想というのを行っているらしく、様々な書籍が出ております。

そう考えると、人類の悩みってのは昔も今も変化しないんですね。ふう。自分すげーって思っていたのに、僕はただの凡人でしたよ。

…ま、そんな凡人具合も今の自分は好きなんですけどね。

ではでは、【ブログ小説】映画のような人生を:第二十三章「変化」でした。

野口明人

ここまで読んでいただき本当に、本当にありがとうございました。

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ブログ小説-映画のような人生を-次回予告

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 なぜ、人の気持ちは変わってしまうのだろう。なぜ人の関係は変わってしまうのだろう。永遠に続けばいいと思う物事ほど脆く、簡単に崩れ去っていく。

次回へ続く!

【ブログ小説】映画のような人生を:今回のおすすめ

マインドフルネスストレス低減法
4.7

著者:ジョン・カバットジン
翻訳:春木豊
出版:北大路書房
ページ数:408

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