ブログ小説の十八回目の更新。膨らむ気持ちについて。
膨らむ気持ちと検索した時に、一番最初に出てきたのは「喜びに膨らむ」という言葉でした。その他には「夢が膨らむ」や、「胸が膨らむ」など、基本的にはポジティブな感じの時に“膨らむ”という言葉は使うみたいです。
しかし。僕がこの言葉を選んだのは、もしも心という風船があって、そこに気持ちという空気を入れ続けてパンパンになってしまったら、いつか割れるのではないだろうかというイメージなのです。
「膨らむ事」ってプラスなイメージもありますが、そこにはある種の危機感も伴うのではなかろうかと。喜びや夢でいっぱいに溢れている感情。それは危うさの象徴なのではないかと。
ま、早い話、恋って時に苦しいよねって事なんですがね。
…という事で、過去に書いた小説をブログ形式に変換して投稿していく企画。小説自体のタイトルは映画のような人生をです。
全部で39章分あるのですが、今回はその中で第十八章「膨らむ気持ち」をお送りしたいと思います。どうぞよろしく。
【ブログ小説】映画のような人生を:第十八章「膨らむ気持ち」
「すいません。遅くなっちゃいました。サイダーを買いに行ったら知り合いに会って話をしちゃったんで。千葉、体調は大丈夫か?」
二人にサイダー瓶を差し出しながら言った。
「お、サンキュー。もう大丈夫や。知り合いって大学の友達かなんかなん?」と千葉はサイダー瓶を開けながら言う。
「そうなんだよ。入学当時に知り合った奴でさ、なんと今日のサークルの説明会に来ていたらしいぞ」
「そうなんだ。結構うちのサークル人気あったりして」
千秋さんもサイダー瓶を受け取って、開ける仕草をした。が、うまく開けられなかった。その姿を愛らしく思った。
「あ、ぼく開けますよ」と千秋さんのサイダー瓶を開けて渡す。
「ありがとう。それでその人は入るって?」
「そうですね。説明会の話が面白かったらしくて、たぶん入るって言っていました」
「今年は豊作かな」
千秋さんはにっこり笑ってサイダーを飲んだ。
「今年は多い方なんですか? あんなに人が集まるなんて思ってもいなくてすごくびっくりしました」
「そうだね、今年は比較的に多い方かな。でもうちのサークルってちょっと特殊でしょ? だから説明会には沢山の人が来るけど、入るのはほんの一部だったりするんだよね」
「そうなんですか。あのサークル、ちょっと謎な部分が多いですもんね。ぼくだってまだ理解出来ていないですし。でも魅力的だったんだよな。アノニムって主にどういう活動するんですか?」
「とりあえず肌で感じてもらった方がわかりやすいから、今度のパーティー来る?」
「パーティーですか?」
「今度の土曜日、舞踏会みたいなのがあるんだよね。サークルアノニムの主催する舞踏会。まずは短い時間だけでも匿名性を楽しもうっていうイベントだね」
「匿名性を楽しむ、かぁ。まだまだ謎ですが面白そうですね。な、千葉」
「そうやな。せやけど土曜日やろ? 参加したいんやけど、すでに予定入ってしもうてるから無理やなあ。残念やけど。千秋ちゃん、それって毎週やっとるんですか?」
「大体、週に一回か二週間に一回はやっているかな。千葉君は次回来れたらいいね。結構楽しいよ」
千葉に向かってウインクしたのをぼくは見逃さなかった。ぼくには、そのウインクの意味がまったくわからなかった。
「せやから、伊波一人で行ってきい」
千葉が肩を叩いた。肩を叩かれてもまだ千秋さんのウインクの意味を考えていた。
その後、ぼくの中のもやもやは次第に大きくなっていき、自分でも抑えきれなくなっていった。でもこのもやもやの原因はなんだろう。わからないまま膨らんでいった。
わからないという事の闇がぼくを覆っていった。
【ブログ小説】映画のような人生を:第十八章「膨らむ気持ち」あとがき
「赤い実はじけた」っていう作品をご存知でしょうか?僕が小学生だった頃に教科書に載っていた作品なんですけど、あの頃は赤い実が何をさしているのかわかりませんでした。
誰かを好きになった事があったけれども、それを赤い実で比喩している事に気が付かなかったし、誰かを好きになる事で苦しくなったり嬉しくなったりした事がなかったからです。
いつからでしょう。恋をすることで胸がこんなにも苦しくなったりするようになったのは。そもそも、どのタイミングから人は恋を認識するのでしょうか。赤い実は、いつはじけるのでしょう。
僕は近しく恋愛というものから離れている生活を送っていますが、友人に「お前は独占欲と嫉妬の塊だからな」と言われたことがあります。
考えてみれば、それは僕の恋愛観を非常によく表現出来ているもので、僕の恋というのは嫉妬心から始まるのです。
異性だけを見て、良いなぁ〜と恋に落ちるのではなく、異性が他の誰かと一緒に仲良くしている姿をみて、自分が落ち込んだりする時に初めて僕はその人の事が好きなんだなと気がつくのです。
そして好きだなと気がついた時にはすでに誰かがその人と仲良くなっていて、大抵はその行方を見守っているだけで僕の恋愛は終わるのです。
それは恋愛と呼ぶにはあまりにも未熟な感情かもしれません。感情で心が溢れて膨らむこともなく、ハラハラもしません。ドキドキもしません。
それでもやっぱり時にチクっとして、あーぁという気持ちにはなってしまう。
それはいつか買ってやろうと毎日見に行っていたお気に入りのバッグが、ある日突然誰かに買われてしまった時の感情に似ています。
元々自分の物でもないのに、誰かに買われた時に、自分の物を奪われた気持ちになってしまうのです。
独占欲と嫉妬の塊。
そんな自分を分析してみると、結局の所、今の自分に自信がないんだろうなぁ〜って思うんですよね。
自信がないうちは、恋愛も無理だろうなぁ。自分に自信があったら、すぐに行動しているだろうし。そもそも誰かと仲良くしていても、自分の魅力に釘付けだから大丈夫だって考えて嫉妬心も生まれないだろうし。
という事で、せめて小説の中だけでも恋愛チックな事が起きればいいのになぁと思う僕でした。
伊波の心のもやもやの闇は一体なんなのか…。
ではでは、【ブログ小説】映画のような人生を:第十八章「膨らむ気持ち」でした。
野口明人
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
【ブログ小説】映画のような人生を:次回予告
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土曜日までは早かった。何をしたというわけではない。ただいつものように家にいて翔子と話したり、ロングピースを燻らせながら本を読んだりしていたら、いつの間にか時間は過ぎていった。ぼくの生活はサークルがなかったら、何一つ変わっていないのではないかと少し戸惑った。ただ、その戸惑いも舞踏会の事を考えると、楽しさですぐに消えた。大学生である必要はないのだ。今、ぼくにとって必要なのは何かに打ち込む事。それがサークル。それでいい。
次回へ続く!
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