ブログ小説の七回目の更新。赤いコートを着た少女について。
前回、「心の喧騒」という原文のままのタイトルを採用してみましたが、ビックリするほど読まれませんでした。
やはりブログ小説ではタイトルが本当に重要なようです。では今回、原文は「涙」というサブタイトルだったんですが、どうするべきか。
一通り今回の章を読んでみて「無想別世界」という言葉が印象的だったのでそれでも良いかな?と思ったんですが、実はそれは僕の造語で検索してもヒットしません。
なのでそういうタイトルはやっぱり検索向けではなさそうなので、色々と考えた結果基本に立ち返ろうと思いました。元ネタはシンドラーのリストから。すべてが灰色のシーンで少女の赤いコートだけが印象的に描かれています。
それが今回の章になんとなくマッチしていると思ったので、特に赤いコートを着た「少女」ではありませんが、そういうサブタイトルにしました。
…という事で、過去に書いた小説をブログ形式に変換して投稿していく企画。小説自体のタイトルは映画のような人生をです。
全部で39章分あるのですが、今回はその中で第七章「赤いコートを着た少女」をお送りしたいと思います。よろしくどうぞ。
【ブログ小説】映画のような人生を:第七章「赤いコートを着た少女」
不意に涙がこぼれそうになった。帰りたい。実家に帰って、普通の生活をして、普通の人生を過ごしたい。そう考えたら急に涙が止まらなくなった。
都会に来て、何が変わったのか。変わったものなど何もない。ただ失っただけだ。両親の顔が浮かんだ。こっちに来てから一度も連絡をしていない。そのことがなんとなく申し訳なく思えた。外に出たことを後悔した。
空を見上げた。雲はなかった。しかし、空は澱み、星は見えない。都会の空はぼくを孤独にさせる。空が落ちてくるような気がした。潰される。不安が心を満たした。もう嫌だ。
ふと、人の気配がした。
ぼくの後ろの方で同じように空を見上げている女性がいた。このぬるい風を受けるにはあまりにも不似合いな厚手の赤いコートを羽織っていた。腕をだらりと横に垂らし、足を理不尽なほどにぴしりと揃えている。
背の高い女性だった。女性はぼくの存在に気がつきもしないように、ただ空を眺めている。
どのぐらい経っただろう。ぼくはその女性の横顔から目が離せなかった。
まるで、たった今、舞い降りたばかりの新雪のように柔らかそうな肌。透き通るような白さ。神様の最高傑作とでも言うかのよう。人形のようだった。
しかし、例えどれだけ時代が流れ、どんなに腕を磨き技術が発達しても彼女を超えるような顔を創れる人形師は現れないだろう。それほど彼女は完璧でぼくにとって魅力的に映った。
彼女は泣いていた。
とても静かに。とても穏やかに。頬を伝う涙。その涙は街灯に照らされ、光り輝いていた。まるで泣くという行動は、神様が彼女の為だけに許した天賦の才能のようだった。
ぼくは何時間も何日も何年も見とれていた気がした。彼女はその間、じっと空を見続けた。涙は止まることなく流れ続けていた。その姿はとても儚く、綺麗に映った。
話しかける勇気もなく、その場を立ち去る決意もなく、ただただ時間は流れた。
ふとぼくは、そんなにも長い時間、彼女は何を見続けているのだろうかと不思議に思う。彼女が見ているものを観たかった。彼女が感じているものを感じたかった。だから彼女が見つめる先を探し求めた。
しかし、そこには先ほどぼくが見ていた都会の空と何も変わらず、星もなく、澱んだ空、小さい月があっただけだった。
彼女は何を見ているのだろう。この夜空を見て何を感じるのだろう。ぼくには何もわからなかった。無想別世界。
理解できないことが妙に悔しく感じた。ただ、涙は出なかった。ぼくの涙は彼女が代わりに流してくれている気がした。
そう思って彼女の方を再び見ると、彼女はふわりと姿を消していた。
左手が妙に痒くなった。
【ブログ小説】映画のような人生を:第七章「赤いコートを着た少女」あとがき
赤いコートを着た少女なんてタイトルを付けましたが、なかなかいい感じの画像が見つからなくて苦労しました。
小説だと基本的には本の表紙となる部分。表紙をみて、ある程度中身を想像するなんて事があると思うんですよ。ブログ小説であればそれがサムネイルだと思うんです。
僕のブログで使う素材は自分のカメラで撮ったものがあればそれを使うんですけど、そうじゃない場合、いくつかの無料写真素材サイトから探してくるんです。
んで、今回は「赤いコートを着た少女」っぽいのを探してみたんですが、なかなかイメージに合うものがなくてね。
「赤 コート」とか「赤 女性」とか色々と検索してみたんですが見つからず。シンドラーのリストのシーンから連想した言葉だったので、試しに「シンドラー」って検索してみたんです。
そしたら出てきたんですね。まさに赤いコートを着た少女が。
ブログ小説を書く上でもそうかもしれませんが、やっぱり「検索」してゴールまでたどり着く技術って現代には欠かせないものだなぁとしみじみ思ったのでした。
ではでは、【ブログ小説】映画のような人生を:第七章「赤いコートを着た少女」でした。
野口明人
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
【ブログ小説】映画のような人生を:次回予告
注意:
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家に帰り、スーパーマーケットで買ってきたサファイアとプラットを混ぜ合わせ、グラスに注いだ。
オリーブを飾るなどという洒落た趣向はせず、ぼくはひたすら二つを混ぜては飲み干し、その行動を繰り返す。そういった単純作業は考え事をするには都合がいい。グラス越しに彼女の顔を思い出す。
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