『象と耳鳴り』を手に取り、ページをめくると見えてきた文章。“きょうは、ようへんてんもくのよるだ。”…なんと美しい響きの文章だろうと思った。全く意味はわからなかったが、妙に惹きつける。
これは楽しみだと読み始めたのだが、なんだが読みにくい。過去の恩田陸の作品もこんな感じの読みにくさから始まるものがあったなぁ…なんて思いながら読んでいると次第に没頭していき読書スピードが上がってくる。
が、ふと頭の中にひとつの疑問が浮かんだ。これは本当に恩田陸が書いた作品なのだろうか…。そして“曜変天目の夜”という言葉を検索して、僕は部屋で一人、飛び跳ねる程の後悔をするのである…。
『象と耳鳴り』のあらすじや情報を10秒でまとめると…
象と耳鳴りとは…
元判事の関根多佳雄。彼は恩田陸のデビュー作『六番目の小夜子』の主人公、関根秋の父親である。彼の周りで起きる日常の何気ない謎を、退職してもなお衰えない鮮やかなロジックで解いていく。表題となる「象と耳鳴り」含む全12編のショートショート。本格推理コレクション。
『象と耳鳴り』っておもしろいの?感想は?評価は?おすすめ?教えて!レビューロボ・読書エフスキー3世!
前回までの読書エフスキー3世は…
書生は困っていた。「ページめくり過ぎて火がついた!」と仕事中に寝言を言ったせいで、独り、無料読書案内所の管理を任されてしまったのだ。すべての本を読むには彼の人生はあまりに短すぎた。読んでいない本のおすすめや解説をお願いされ、あたふたする書生。そんな彼の元に22世紀からやってきたという文豪型レビューロボ・読書エフスキー3世が現れたのだが…
大変です!先生!『象と耳鳴り』の事を聞かれてしまいました!『象と耳鳴り』とは一言で表すとどのような本なのでしょうか?
“同じ物を見て違うモノを考えるミステリーコレクション”デスナ。
…と、言いますと?正直な所『象と耳鳴り』は面白い本なのでしょうか?
面白イ面白クナイハ私ニハ決メラレナイヨ。「希望を持たずに生きることは、死ぬことに等しい」ト言イマスシ。オ寿司。
えーっと、それでは困るのです。読もうかどうか迷っているみたいですので。ちょっとだけでも先生なりのご意見を聞かせていただきたいのですが。
真ノ紳士ハ、持テル物ヲスベテ失ッタトシテモ感情ヲ表シテハナラナイ。私ノ好キ嫌イヲ…
えええい。ちょこざいな!僕は解説せねばならないのだ!先生、失礼!(ポチッと)
ゴゴゴゴゴ…悪霊モードニ切リ替ワリマス!
うぉおおお!先生の読書記録が頭に入ってくるぅぅー!!
恩田陸を発表順に読んでいくシリーズ。
前回に引き続き、今回も短編小説なわけだが…。
えー。前回も言いましたが基本的には短編小説って苦手なんですよ。出来れば登場人物に感情移入出来る長編でお願いしたい所ですが…。
安心なさい。今回の短編小説は主人公が一緒だ。バラバラな物語の短編作品の寄せ集めではなく、一人の男の活躍を集めたもの、シングルコレクションのような短編集だ。
- 曜変天目の夜
- 新・D坂の殺人事件
- 給水塔
- 象と耳鳴り
- 海にゐるのは人魚ではない
- ニューメキシコの月
- 誰かに聞いた話
- 廃園
- 待合室の冒険
- 机上の論理
- 往復書簡
- 魔術師
バリエーションに富んだタイトルだけれども、主人公はほぼ一緒。
しかもだね、今回の主人公は関根多佳雄。この名前を見て何か思い出すことはないかね?
うーん。関根多佳雄?…関根、関根。最近どこかで聞いた響きなんだけど。
あー!!秋くん!恩田陸のデビュー作『六番目の小夜子』の主人公じゃないですか!
そ。関根多佳雄は、その秋くんのお父さんだ。『六番目の小夜子』にもちょこっと登場したぞい。
関根家は、この地方ではよく知られた旧家で、代々法曹界に名を成していた。秋の祖父も父も裁判官で、親類縁者に弁護士や法律関係者の名前を挙げればきりがない。
「――おお、秋くん、いましたか」
久しぶりに会う父である。
秋の父、関根多佳雄は大男である。秋も大柄だが、父はこの年代にしては珍しく骨格の大作りな男で、ゆっくりと静かに、大きな身体を折り曲げるようにして部屋に入ってくる。話し方もいつも丁寧でゆっくりだ。明治の文豪のようなレンズの小さい丸眼鏡を掛け、つかみどころがないくせに不思議と存在感のある父であった。常に多忙で秋が小さい頃からほとんど家にいることはなかったし、歳の離れた兄と姉がいるため祖父といってもいいくらいの年齢だったが、秋はこの父をとても尊敬していた。
「―――(中略)それにしても、素敵ね、秋くんのお父さま。さすが秋くんのお父さまだわね」
「それってどういう意味で言ってるんだよ。あの人の子供やってるっていうのも結構大変なんだぜ」
「あっはは。分かるような気がするわあ」
引用『六番目の小夜子』恩田陸著(新潮社)
あぁ…。懐かしいですねぇ。思い出しましたよ。沙世子に謝りに行く時に一緒に秋くんについてきましたね。このお父さん、存在感すごかった。
そう。それがどうやら恩田陸の周りでも評判が良かったらしく、今回、満を持して主役として登場したわけだ。さらに「歳の離れた兄と姉がいるため」と書いてあろう?
お。もしかして秋くんのお兄さんとお姉さんも登場しちゃいますか!?
そのとおり。“三番目のサヨコ”として登場した秋くんの兄、春くんは準レギュラーとして、“渡すだけのサヨコ”として登場した姉の夏も「机上の論理」で主要人物として登場している。
関根ファミリー総出演じゃないですか!
と、まぁ、法曹界に名を成していた関根家が大活躍する物語なんですよ。退職した判事の関根多佳雄、期待の新星の検事、関根春などなど探偵役には持って来いなわけですし。OSUSHI。
それは恩田陸ファンにはタマラナイ一冊ですね。
そう。確かにこの短編集『象と耳鳴り』は評判がいい。だが私はあえて言おう。これは私の中の“恩田陸”の作品ではないと!
え?それはどういう事ですか?別の人が書いたってことですか?
君、今まで恩田陸の作品をデビュー作から読んできたわけだろ?そうすると徐々に作家のイメージが固まってこなかったかい?得意とするジャンル的なものが。
作家イメージですか。確かに、昔も新思潮派とか新感覚派、耽美派やら白樺派とかありましたもんね。何を大事にするか、何を得意とするか。うーん。
それで言うと今まで読んできた恩田陸のイメージはどうかね?
そうですねー。“ノスタルジー”とか“どんよりした不安なモノ”を書かせたらピカイチってイメージですね。そういう文章を読むと、おお。これは恩田陸が書いたんだなぁって感じます。
今回、そういう“恩田陸さ”が垣間見れたのは「給水塔」と最後の「魔術師」にちょこっとだけだと思う。あとは全くの別物、本格推理小説を目指して書かれたものだ。そこにはあまりノスタルジーさなどは感じられず、ひたすらロジックな文章で攻め込んでいる。
それは悪いことなのでしょうか?恩田陸の幅が広いって事なんじゃないですか?
いや、別にそれ自体は悪いことではない。ギャグ漫画書いていた漫画家が真剣な格闘漫画描いて大ヒットする事とかもあるわけだし。
それで言うとファンタジーやホラー色の強い恩田陸がミステリーを書いたとしても、それほど抵抗はないじゃないですか。ギャグ漫画からシリアス漫画の転換に比べて、ミステリーとホラーって近いじゃないですか。感覚的に。
確かにそうだ。恩田陸はミステリー作家だと言っても、変な顔はされないだろう。確かに彼女が今まで書いてきた作品はミステリーにも分類出来る。
では一体なにが問題なのでしょう…?
昔、陸上選手がプロ野球選手に転向して、盗塁王を目指した人がいるのを知っているかね?
ロッテの飯島秀雄ですよね。あの人も早稲田なんですよ。元100m走の日本記録保持者。
まさに今回の『象と耳鳴り』は飯島秀雄さんのような短編集だと思うのだ。
確かに飯島秀雄さんは足が速かった。しかもロケットスタートと呼ばれる特徴を持つ選手だ。足が速くてロケットスタート。まさに盗塁には向いてそうな特徴を持っているのに、盗塁成功率は驚くほど低く、牽制でアウトになる率が高すぎた。
似たような特徴を持つものでも、向き不向きがあるってことですか?
つまりは恩田陸の作品についても、ここまでの段階では、本格派推理小説よりも、ノスタルジーを含めたほのかなミステリーの方が向いているなぁと感じざるを得ない作品なのだ。
でも、結構評価が高いじゃないですか。
ロッテを思い出しなさい。あの当時、客入りが恐ろしく悪かったロッテ。昔のパ・リーグなんて球場がガラガラの中やるなんて事もザラだったろう。それを救ったのが飯島秀雄さんだ。
今までの倍になったって聞きますね。デビュー戦なんて四倍の客入りですよ。
つまりはそういう事だ。ファンからすれば飯島秀雄さんが走るのが観たい。成功失敗はそれほど重要ではない。恩田陸が書いたものが読みたい。その質はそれほど重要ではない。
うーん。そーですか…。僕は面白いと思ったんですけどね。クロスワードパズルを解いているみたいな感じで。同じ物見てるはずなのに別のことを考えてる。それを短い作品でクイズと答えをササッと見せてくれる。読んでいて爽快でしたよ。
いやはや、面白いのは確かだよ。ただ本格推理小説を読みたいという人には他の本を薦めるだろうし、恩田陸のおすすめは?と聞かれた時には1冊目にこの本を薦めるのはちょっと抵抗がある。という話だ。恩田陸を好きになってからこれを読んでもらいたい所だね。
確かに『六番目の小夜子』を読んだかどうかで、この作品の思い入れもだいぶ変わりそうですね。いわばスピンオフのような作品なわけですから。
まぁ、そういった意味で向き不向きを感じてしまった作品だと私は思うのだよ。もしこれが恩田陸ではなく他の作家が書いていたとしたら本当に評価されたのか?とも思う。
結構、今回は辛口ですね。なんかあったんですか?
いや、なんでもないよ。あくまでも個人的な、至極、個人的な感情は抜きにせねばならない。
えー。ここまで言ったんだから教えてくださいよ。ようへんてんもくがどうしたんですか。
ようへんてんもくとは、曜変天目茶碗の事なんだけどね。天目茶碗の最上級。まぁ、早い話、国宝になってる茶碗なのだよ。曜変天目って。現存するものは3つだけの凄く貴重な茶碗。その模様は星の輝のようだとか言われていてね。
へー。宇宙が広がる茶碗ですか。良いじゃないですか、幻想的で。
私はね、トライポフォビアなのだよ。
え?トライポフォビアって集合体恐怖症のことですよね?ロボなのに?
私はね、とにかくこう似た形のようなものがガッと集まっているものを見ると恐怖を感じるのだよ。そういう風に設計されているのだよ。生まれた時から。こればかりは他人に理解してもらうにも難しい所があるが。
うぎゃーーーー!!!!!な、なんだこの気持ち悪い模様は!
どうやらそうみたいですね。親がキレイだと言って玄関に飾ってある蓮のドライフラワー見てゾゾゾっとしますし。
まぁ、という事で完全に私念ではあるが、“きょうは、ようへんてんもくのよるだ”という魅力的な文章を生み出したこの作品が個人的に好きになれないのだよ。
なんという、個人的過ぎる意見!!僕はあれですよ。検索したといえば、「ニューメキシコの月」に出てきたアンセル・アダムスの写真は大好きですよ。
確かにあれはイイね。昔の写真家なのに、全く古さを感じさせない。昔のカメラで撮っているのに、今の進んだ技術のカメラでもこんなに凄いの撮れないんじゃないか!?と思わせる神々しさがある。
ま、という事で、ようへんてんもくはアンセル・アダムスにかき消してもらうと言うことで。いいんじゃないですか?
なんだかんだ言っても、私も関根ファミリー大好きですし。おすし。
そのちょいちょい入れるお寿司ネタ、そろそろツッコんだ方がいいっすか?
寿司ネタ!?寿司だけにネタってね!面白くなくても押すし!
はぁ…。ダメだ。ようへんてんもくで変になっちゃってるわ。
活動限界!白痴モードニ移行シマス!コード「ポルフィーリィ・マルメラードフ・オスシ!」
あれ?僕は一体何を…。ん?なんか全身が鳥肌が立っているけど。あ!こ、このカセットテープは。
せ、先生!ありがとうございます!これを何度も聞いてしっかりと『象と耳鳴り』の読書案内を出来るように努力します!
マ、イチ意見デスヨ。「幸福ハ幸福ノ中ニアルノデハナク、ソレヲ手ニ入レル過程ノ中ダケニアル」ト昔ノ人モ言イマシタシ。ヨリヨクオススメデキルヨウニ努力スルノハハイイコトデス。
『象と耳鳴り』で気に入った表現や名言の引用
「一杯の茶を飲めれば、世界なんか破滅したって、それでいいのさ。by フョードル・ドストエフスキー」という事で、僕の心を震えさせた『象と耳鳴り』の言葉たちです。善悪は別として。
いやはや、我々は毎日少しずつ死んでいっているわけだが、この手足ときたら、それを深く実感させられるねえ。
目の前のカップに、湯気をたてる黒い液体が満たされていた。その黒い鏡に自分の顔が映っている。そこにも小さな暗黒があった。
俺は違う人とは違うあいつとは違う。
あたしを見てあたしの方が可愛いあの子より可愛い。
俺にやらせろ・あたしを選んで・みんなの中から・僕だけに奇跡を・あたしだけに幸福を。
どの目もそう言っている。だからこそ皆同じ顔に見えるのだ。
批判するな。腹を立てるな。眉をひそめるな。見下すな。批判は心身を緊張させ、軽蔑は感情を摩耗させる。この猛スピードで疾走する大都市の中で自分を擦り切れさせないためには、全てをそのまま受け入れることが大切だ。しかも、ただ受け入れるだけでは駄目なのだ。ほんの少し舐めたり齧ったり、撫でたりさすったりしてみなくては。好奇心を失った瞬間から人は少しずつ死んでいく。目の前の現実を自分と無縁のものだと決めた瞬間から、受け入れた現実はザルのように抜け落ちていく。
また電波と人体の因果関係については何もわかってないんだから。だが、少なくとも、飛行機の計器や、人体に埋め込んだペースメーカーや医療器具に影響を及ぼすことは知られている。電話を掛けてる人間にとってはどうでもいいんだろうな。電車であんなに車内放送を流しても、隣にどんな事情のある人が座っている可能性があるかこれっぽっちも考えずに、これみよがしに電話してる連中は山ほどいるからな。
水は形がないだけに恐ろしいね。つまらない話だが、家の修理で一番嫌なのは漏水だね。水が漏れているという事実に人間はものすごく恐怖を覚える。水はじわじわと染み込んで物を破壊する。水はいつもそこまで来ている。あの怖さったらないね。大昔から、人類は水を堰きとめることに多大なエネルギーを費やしてきたからねえ。今だって大して変わらない。我々の生活だって考えようによっちゃ、毎日せっせと堤防に土嚢を積んでるようなものだね。いつでも水はすぐそこにあって、ちょっとでも土嚢を積むのをさぼろうものなら、一挙に堤防は決壊する
年長者と同性から見ていい男が必ずしも若い女性から見てそうとは限らない。今時、仕事人間など流行らない。ちゃんと毎晩帰ってきて業務報告をし週末に味も分からぬ二千円程度のワインを、冷蔵庫で冷えきった堅いチーズと一緒に飲んでくれる男がいいのだろう。
寄せては返す波というのは本当に不思議だ。この静かな空気、透明な空気のどこにこれだけの動きを引き起こすエネルギーが隠れているというのだろう。目に見えぬものが世界を動かしているという事実を、なぜ潮の干満や波に限って信じることができるのだろう。
一般的に、人魚の正体はジュゴンとかマナティだっていうんでしょ? でも、あれってどう見ても人魚には見えないよねえ。水族館で見たことあるけれど。あれをラッコとかアザラシに見間違えるっていうのなら分かるよ、でもあのつるんとした間抜けな顔見て人魚に見間違える阿呆がいると思う? よほど目が悪いか、よほど暗かったか、よほど見た奴が怯えてたかのどれかだよ
新しい技術が開発されると、まずその利用法を徹底研究して進化させるのは犯罪だね。テレホンカード、伝言ダイヤル、携帯電話、パソコン通信――どれもみな、当初の目的とは違うところで使われてきて問題になっている。でも、本来の利用法にとらわれずに、いろいろな使い道を試すってのは考え方として嫌いじゃないんだけどな。なかなかうまくいかないもんだね
いつの世も、情報は庶民が権力者に対する重要な武器でありました。権力者がどんどん巨大に、ボーダーレスに、しかも見えにくくなっている現代、情報の隠蔽、撹乱はますます巧妙になっていると思われます。しかし、どんなに便利になろうと、最後は嗅覚と情熱なのです。いくら役に立つ情報が目の前に垂れ流されようと、そこから何かを感じ取り選びだせる人間の数はいつの世にもそんなに多くは存在しません。
知らない相手が自分を知っているというのは気持ちのいいものではありません。
前にCDが発売された時、あっというまにCDが普及して、LPレコードが姿を消してしまったことがありました。レコード針を作っていた工場が、たちまち閉鎖に追い込まれたというニュースを覚えています。けれど、暫くすると、やはりLPレコードの良さが見直されて、今では盛り返し、一定のシェアを保っています。どちらかがどちらかを駆逐するのではなく、アナログとデジタルの両立する世界、それが一番健全な世界なんじゃないでしょうか。
数というのは大事です、いろんな意味で。都市もそう。お互いに相手の顔を把握しきれないような数を超えてしまうと、その街――場所と言い換えてもいい――は、それ自身の意思を持つんです。いったん意思を持つと、それはやがて何らかの方向性を持つようになる。比喩じゃないんですよ、ほんとうにそいつは生物のように、脳味噌を持っているように、物理的な意味で『考える』ようになる
やはりこの世のものは全て繋がっているんですね。存在する限り、何かに影響を与え続け、同時に与えられ続けている
引用:「象と耳鳴り」恩田陸著(祥伝社)
『象と耳鳴り』を読んでいる時にパッと思い浮かんだ映画・小説・漫画・アニメ・テレビドラマ、または音楽など
神ト悪魔ガ闘ッテイル。ソシテ、ソノ戦場コソハ人間ノ心ナノダ。コノ作品ガ私ニ思イ起コサセタ。タダソレダケナノダ。
『象と耳鳴り』のまとめ
非常に魅力的なキャラクターである関根ファミリー。彼らの活躍をこれからも見ていきたい所であるが、彼らが登場人物だったから今回の作品は良かったのかなぁと思う。もし彼らがいなかったならもう少しガッカリしていたかもしれない。作品自体に驚きがあまりなかったからだ。
なんというか、これをやるならもう少し磨いてからじゃないと、他の作家読めばよかったって思われちゃうだろ…っていう何とも残念な感じ。
もちろん、新しい事をやるのは賛成ですし、今までは本当に恩田陸は色んな文章の形を持っていて不思議な作家だなぁと、バリエーションの豊富さに感心していたのです。なのでちょっとばかし期待しすぎてしまったのかもしれない。
「廃園」のバラのように時折見えてくる妖艶で不安な空気感を見ると、あぁやはり恩田陸だ。と安心している自分を考えてみれば、もうすでに僕は恩田陸の虜なのかもしれませんが。
どうにも今回は新しい恩田陸の顔というよりも、別の誰かが恩田陸の真似をした、というような感じがして受け入れられませんでした。何かが違う。もう少し出来るはずなんだ、恩田陸。…ま、古参のファンの方には申し訳ない言い分なんですけどね。
オマエが恩田陸の何を知ってるんだ!と言われたら、すいませんとしか言えないんですがね。でも引き続き読んでいきますよ、発表順に恩田陸。面白いのは間違いないんですから。
ではでは、そんな感じで、今までで一番辛口な『象と耳鳴り』のレビューでした。最後にこの本の点数は…